コラム

2023/07/17

動物病院の広告規制

 現代社会において広告はどのような職種においても重要な役割を果たします。しかし、こと動物病院においては、節度のない広告は飼い主の混乱を招くため規制が設けられています。

 本コラムでは、動物病院の広告規制について解説いたします。

 なお、令和6年4月1日から獣医療に関する広告制限が変わりますが、本コラムは変更前の法令等に基づくものですのでご留意ください。

はじめに

 動物病院が広告を出そうとする場合、

  1. 獣医療法
  2. 医薬品医療機器等法(薬機法)
  3. 景品表示法
  4. 屋外広告物法・屋外広告物条例

などの法令による規制を受けるため、注意が必要となります。

 以下、具体的にどのような規制を受けるかについて解説いたします。

獣医療法及びガイドライン

 獣医療に関する広告によって、獣医療について十分な専門的知識を有しない飼育動物の飼育者等が惑わされ、不測の被害を被ること等を防止する観点から獣医療法17条1項の規定に基づき、獣医師又は診療施設の業務に関しては、その技能、療法及び経歴に関する事項を広告してはならないこととされています。

何人も、獣医師(獣医師以外の往診診療者等を含む。第二号を除き、以下この条において同じ。)又は診療施設の業務に関しては、次に掲げる事項を除き、その技能、療法又は経歴に関する事項を広告してはならない。
一 獣医師又は診療施設の専門科名
二 獣医師の学位又は称号

獣医療法17条1項

広告の定義(獣医療広告ガイドライン)

 獣医療法における広告とは、随時に又は継続してある事項を広く知らしめるものであって、以下の①から③までの全ての要件に該当すると飼育者等が認識できる場合には、獣医療法17条の規定による広告制限の適用を受ける広告に該当するものであるとされます。 

  1. 誘引性:飼育者等を誘引する意図があること
  2. 特定性:獣医師の氏名又は診療施設の名称が特定可能であること
  3. 認知性:一般人が認知できる状態にあること 

広告の具体例

 テレビCM、ラジオCM、新聞広告、雑誌広告、看板、ポスター、チラシ、ダイレクトメール(ハガキ等)、インターネットの広告サイト(バナー広告も含む。)等があります。

通常、広告とはみなされないもの

  • 学術論文、学術発表等
  • 新聞、雑誌等の記事(記事風広告は広告とみなす)
  • 体験談、手記(個人の体験談、手記等を利用して施設のパンフレット等に記載した場合は、「誘引性」を有するものとして扱うことが適当である。)
  • 診療施設内掲示、診療施設内で配布するパンフレット(診療施設の外から容易に見ることができるなど、その情報の受け手が限定されない場合は「認知性」を有するものとして扱うことが適当である。)
  • 飼育者等からの申出に応じて送付するパンフレット、電子メール等(希望していない者に送付されるパンフレット、ダイレクトメール等については、「認知性」を有するものとして扱う。)
  • 診療施設の職員募集に関する広告
  • インターネット上のホームページ(インターネット上のバナー広告、あるいは検索サイト上で、例えば「癌治療」を検索文字として検索した際に、スポンサーとして表示されるものや広告サイトで表示されるものなど、実質的に誘引性・特定性・認知性全ての要件に該当する場合には、広告とみなす。)
  • 行政機関の広報又はポスター

広告が制限される事項

 前述の通り、獣医療法17条1項では、何人も、獣医師(獣医師以外の往診診療者等を含む。)又は診療施設の業務に関しては、①獣医師又は診療施設の専門科名、②獣医師の学位又は称号を除き、その技能、療法又は経歴に関する事項を広告してはならないこととされています。なお、技能又は療法とは、獣医師が行う診療に関する獣医学的判断や技術に関する能力又は治療方法をいいます。

 次に、獣医療法施行規則24条2項では、提供される獣医療の内容が他の獣医師又は診療施設と比較して優良である旨を広告してはならないこと(比較広告)、提供される獣医療の内容に関して誇大な広告を行ってはならないこと(誇大広告)、提供される獣医療に要する費用を併記してはならないこと(費用広告)の制限を定めています。

獣医療法及び獣医療法施行規則によって広告が認められる事項

 技能、療法または経歴に関する事項のうち、獣医療法17条および獣医療施行規則24条で定める以下の事項は広告することができるとされています。

  • 獣医師又は診療施設の専門科名
     専門科名とは、獣医師が診療を担当している診療科名をいい、具体的には大学の講座名にある等一般に広く認められているもの、診療対象動物名を示すものがあります。
     専門分野を示す科名の例:内科、呼吸器科、消化器科、循環器科、アレルギー科、寄生虫科、外科、整形外科、泌尿器科、繁殖科(産科、臨床繁殖科)、放射線科(臨床放射線科)、腫瘍科、画像診断科、皮膚科、耳鼻科、眼科、歯科等内科、呼吸器科、消化器科、循環器科等
     対象動物を示す科名の例:大動物専門科、牛専門科、豚専門科、馬専門科、鶏専門科、犬・猫専
     門科、小鳥専門科、エキゾチックアニマル専門科、うさぎ専門科、ハムスター専門科、フェレット専門科、は虫類専門科等
  • 獣医師の学位または称号
     「学位」とは大学、独立行政法人大学評価・学位授与機構又は旧学位令により授与される獣医学士、獣医学修士、農学博士、獣医学博士、博士(獣医学)等をいい、「称号」とは獣医師法附則第19条に規定する「新制獣医師」等をいいます。
     なお、専門医、認定医等については、学位又は称号に含まれないため、これらを広告することは認められないことに留意する必要があります。
  • 獣医師法(昭和二十四年法律第百八十六号)第六条の獣医師名簿への登録年月日をもって同法第三条の規定による免許を受けていること及び第一条第一項第四号の開設の年月日をもって診療施設を開設していること。
  • 医薬品医療機器等法第二条第四項に規定する医療機器を所有していること。
  • 家畜改良増殖法(昭和二十五年法律第二百九号)第三条の三第二項第四号に規定する家畜体内受精卵の採取を行うこと。
  • 犬又は猫の生殖を不能にする手術を行うこと。
  • 狂犬病その他の動物の疾病の予防注射を行うこと。
  • 医薬品であって、動物のために使用されることが目的とされているものによる犬糸状虫症の予防措置を行うこと。
  • 飼育動物の健康診断を行うこと。
  • 家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)第五十三条第三項に規定する家畜防疫員であること。
  • 家畜伝染病予防法第二条の三第四項に規定する家畜の伝染性疾病の発生の予防のための自主的措置を実施することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人から当該措置に係る診療を行うことにつき委託を受けていること。
  • 獣医療に関する技術の向上及び獣医事に関する学術研究に寄与することを目的として設立された一般社団法人又は一般財団法人の会員であること。
  • 獣医師法第十六条の二第一項に規定する農林水産大臣の指定する診療施設であること。
  • 農業保険法(昭和二十二年法律第百八十五号)第十一条第一項に規定する組合等(以下「組合等」という。)若しくは同条第二項に規定する都道府県連合会から同法第百二十八条第一項(同法第百七十二条において準用する場合を含む。)の施設として診療を行うことにつき委託を受けていること又は同法第十条第一項に規定する組合員等の委託を受けて共済金の支払を受けることができる旨の契約を組合等と締結していること。

技能又は経歴に係わらないとして広告が可能な事項

  獣医師または診療施設の業務に関して、その技能、療法または経歴に係わらないとして広告可能とされている事項は以下のとおりです。(獣医療広告ガイドライン5(2))

  • 診療施設の開設予定日
  • 診療施設の名称、住所及び電話番号
  • 勤務する獣医師の氏名
  • 診療日、診療時間及び予約診療が可能である旨
  • 休日又は夜間の診療若しくは往診の実施
  • 診療費用の支払い方法(クレジットカードの使用の可否等)
  • 入院施設の有無、病床数その他施設に関すること
  • 診療施設の人員配置
  • 駐車場の有無、駐車台数及び駐車料金
  • 動物医療保険取扱代理店又は動物医療保険取扱病院である旨
  • ペットホテルを付属していること、トリミングを行っていること、しつけ教室を開催していること等 

罰則

 獣医療法17条1項に反した場合には、50万円以下の罰金に処せられます(獣医療法20条2号)。

薬機法

 薬機法とは、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の品質・有効性・安全性の確保などによって、保健衛生の向上を図ることを目的とした法律です。正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。

 「薬機法」は人以外に動物も適用対象としているため、動物病院においては医薬品や医療機器の記述に注意が必要となります。

 薬機法では主に以下の広告等が規制されます。

  • 虚偽又は誇大な広告(薬機法66条)
  • 承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止(薬機法68条)

 規制に反した場合、行為者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(薬機法85条4号、5号)。

 また、法人の代表者、法人や人の従業者等が、その法人又は人の業務に関して規制に反した場合には、行為者に加え、その法人やその人も200万円以下の罰金に処せられます(薬機法90条2号)。

景表法

 景表法とは、過大な景品類や虚偽・誇大な不当表示を禁止することで、消費者の利益を保護しようとする法律です。正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。

 景品表示法の表示規制は、一般消費者に商品の品質が実際よりも著しく優良だと誤解させる表示(優良誤認表示)や、非常に有利な購入や契約と思わせる価格表示(有利誤認表示)を禁止します。表示規制の対象は、チラシ、ポスター、インターネット上の広告など一般消費者が目にする広告や表示全般です。

 景表法に反した場合、内閣総理大臣は、事業者に対し、広告の差し止めや、再発防止のための必要な措置を命じたり(措置命令。景表法7条1項)、課徴金の納付を命じたりすることができます(景表法8条)。

 措置命令に従わなかった場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられ、情状によりこれらが併科されることがあります(景表法36条)。

屋外広告物法・屋外広告物条例

 都道府県、指定都市及び中核市は、屋外広告物法に基づき屋外広告物条例を定め、必要な規制を行うことができます。

 また、景観行政団体である市町村、歴史まちづくり法に基づく計画認定都市及び都市再生特措法に基づき「滞在快適性等向上区域(まちなかウォーカブル区域)」を設定した市町村も都道府県と協議の上、屋外広告物条例を定め、必要な規制を行うことができます(ただし、屋外広告業の登録に関することを除きます。)。

 例えば、大阪市では、都市における良好な景観の形成、風致の維持及び公衆に対する危害防止の観点から、大阪市屋外広告物条例を設けて、屋外広告物の表示及び広告物を掲出する物件の設置・維持について、規制及び指導を行っています。

 屋外広告物とは

  • 常時又は一定の期間継続して
  • 屋外で
  • 公衆に表示されるもの

であって、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するものをいいます。

 広告表示内容は個人及び法人の名称、商品名、商標、ロゴマークなども含み、表示内容の営利性や公共性を問いません。

 大阪市内で屋外広告物を設置する場合には、一部の適用除外広告物(窓ガラスの内側に表示されるもの、音響によるものなど)を除いて、あらかじめ市長の許可を受けなければなりません(大阪市屋外広告物条例2条1項)。

 市長の許可を得ずに屋外広告物を設置した場合には、30万円以下の罰金に処せられます(大阪市屋外広告物条例20条の3第1号)

まとめ

 動物病院が外部に情報を発信する場合には、各種法令の広告に該当するか否か、該当する場合には規制に反していないかを検討する必要があります。これらの規制に反した場合には、罰則や行政処分が定められていますので慎重に検討する必要があります。

 動物病院が外部に情報を発信する際に、法令に違反していないかの判断に迷ったときには、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士 石堂 一仁

所属
大阪弁護士会
大阪弁護士会 財務委員会 (平成29年度~令和5年度副委員長)
大阪弁護士会 司法委員会(23条小委員会)
近畿弁護士会連合会 税務委員会 (平成31年度~令和5年度副委員長、令和6年度~委員長)
租税訴訟学会

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