コラム

2023/07/10

管理監督者とは

 「管理職だから残業手当が支払われない」といったことを耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 確かに、管理監督者は、部下への指示や経営方針の決定などにおいて重要な役割を担う労働者で、一般労働者と区別され、法律上特別な規定が設けられています。

 しかし、管理職にある者が管理監督者に該当するかは、労働状況を踏まえて個別的に判断する必要があり、判断を誤ると、様々な労働トラブルを招くおそれがあります。

 本コラムでは、管理監督者の定義や管理監督者に該当する要件、管理監督者について発生しがちなトラブル等について解説していきます。

管理監督者の定義

 管理監督者とは、「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法41条2号)と定義されています。

 また、厚生労働省の行政解釈では、「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきもの」とされています。

 このような立場にある管理監督者には、労働基準法における労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されません。

 もっとも、管理職にある者すべてが管理監督者に該当するわけではありません。労働基準法上の管理監督者に該当するか否かは、以下の判断基準を踏まえて判断されます。

  1. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
  2. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
  3. 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
  4. 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

①労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること

 労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していなければ、管理監督者とはいえません。

②労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること

 労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。

 「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は、管理監督者とはいえません。 

 下記の事項に関する責任と権限が実質的にない場合、管理監督者とはいえないと判断されます。

  • 採用
    事業場・店舗に所属する従業員(正社員・契約社員(アルバイト・パート等を含む)等)の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限
  • 解雇
    事業場・店舗に所属する従業員(正社員・契約社員(アルバイト・パート等を含む))の解雇に関する責任と権限
  • 人事考課
    部下の人事評価・人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することを言う。)に関する責任と権限
  • 労働時間の管理
    事業場・店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限

③現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること

 管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。

 労働時間について厳格な管理をされているような場合は、管理監督者とはいえません。 

(1)遅刻、早退等に関する取扱い

 遅刻・早退等による減給の制裁や、人事評価・人事考課で遅刻・早退等の勤怠に付随してマイナスの評価をされるなど不利益な取扱いがされる場合は、管理監督者とはいえません。

 ただし、過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払をしなければならない観点から、管理監督者であっても労働時間の把握や管理が行われます。

 そのため、このような労働時間の把握や管理を受けているだけでは管理監督者性を否定する要素とはならないことに注意が必要です。

(2)労働時間に関する裁量

 営業時間中は事業場・店舗に常駐しなければならない、あるいは従業員(正社員・契約社員(アルバイト・パート等を含む)等)の人員が不足する場合に、それらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合など、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合は、管理監督者とはいえません。

(3)部下との勤務態様の相違

 管理監督者としての職務も行う一方で、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど、労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合は、管理監督者とはいえません。

④賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

 管理監督者は、その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。

(1)基本給、役職手当等の優遇措置

 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分な賃金額ではなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められる場合は、管理監督者とはいえません。

 管理監督者となったことで給与額(基本給・役職手当)が管理監督者となる前の給与(基本給・残業代)の賃金額を下回る合は、管理監督者と認められない可能性が高いので、注意が必要です。

(2)支払われた賃金の総額

 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他事業場・店舗を含めた同一企業内での一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合は、管理監督者とはいえません。

(3)時間単価

 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額が、事業場・店舗に所属する従業員(正社員・契約社員(アルバイト・パート等を含む)等)の賃金額に満たない場合は、管理監督者とはいえません。

 特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となります。

管理監督者の取扱い

 上述の通り、管理監督者には、労働基準法における労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されませんが、通常どおり適用される規制もあるため注意しなければなりません。

法定労働時間(1週40時間、1日8時間)適用しない
休憩時間適用しない
残業代深夜労働のみ適用する
法定休日適用しない
休日手当適用しない
年次有給休暇適用する
変形労働時間制適用しない
フレックスタイム制適用しない
遅刻・早退への欠勤控除適用しない
出勤しないときの欠勤控除適用する
労使協定の過半数代表者なれない
安全配慮義務適用する
勤怠管理適用する

深夜労働の割増賃金

 管理監督者であっても、深夜業(22時から翌日5時まで)の割増賃金は支払う必要があります。

 労働基準法は、労働時間に関する規制と深夜業に関する規制を区別しているところ、労働基準法第41条において深夜業に関する規定は除外されていないことから、深夜業に関する規定は適用されることとなります。

有給休暇

 労働基準法では、雇入れの日からの継続勤務期間と週の所定労働日数に応じた日数分以上の年次有給休暇を毎年与えることが義務付けられています。

 この規定は、管理監督者に対しても一般の労働者と同様に適用する必要があります。

 なお、働き方改革関連法の施行により、10日以上の有給休暇が与えられる労働者に対しては、会社(事業主、使用者)側が時期を指定した上で年間5日以上の有給休暇を取得させなければならないことになっていますが、これは管理監督者にも当てはまります。

労使協定の過半数代表者になれない

 労働者の過半数代表者とは、36協定などの労使協定を結ぶ際や、就業規則の制定・変更を行う場合に、労働者側の締結当事者になる者をいいます。

 過半数代表者は労働基準法41条の2号に該当する者(管理監督者)を対象外と明記していますので、管理監督者に該当する者は過半数代表者となることはできません。

安全配慮義務

 安全配慮義務とは労働契約法5条で定められている、使用者が労働者の生命、身体等の安全を確保し労働ができるよう必要な配慮をする義務のことを指します。

 生命、身体等の安全には心身の健康も含まれるとされており、具体的には企業に対して、労働者に過重労働等による健康障害が生じないよう配慮を求めるものです。

 管理監督者は労働基準法の制限を受けないため、長時間労働につながりやすい側面もありますが、雇用主は労働契約法や労働安全衛生法に則り、管理監督者の身体・健康の安全確保に努めなければなりません。

過去の裁判例

「管理監督者」をめぐる具体的な裁判事例について紹介いたします。

姪浜タクシー事件(福岡地裁平成19年4月26日判決)

事件の概要

 タクシー会社Yの従業員であったXが、雇用契約に基づき、時間外手当等の支払を求めた事案。

裁判所の判断

 Xは、営業部次長として、終業点呼や出庫点呼等を通じて、多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあったと認められる。また、乗務員の募集についても、面接に携わってその採否に重要な役割を果たしており、出退勤時間についても、多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの、唯一の上司というべき専務から何らの指示を受けておらず、会社への連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど、特段の制限を受けていたとは認められない。さらに、他の従業員に比べ、基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり、Yの従業員の中で最高額であったものである。加えて、XがYの取締役や主要な従業員の出席する経営協議会のメンバーであったことや、専務に代わり、Yの代表として会議等へ出席していたことなどの付随的な事情も認められ、これらを総合考慮すれば、Xは、いわゆる管理監督者に該当すると認めるのが相当である。

日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)

事件の概要

 大手ファーストフード店で店長として勤務するXが、会社Yに対して未払残業代などの支払を求めた事例。

裁判所の判断

 Xが管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に労働基準法41条2号の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、③給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。

 Yにおける店長は、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。

 また、Xの勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められないうえ、Yにおける店長は、Yの事業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく、各種会議でYから情報提供された営業方針、営業戦略や、Yから配布されたマニュアルに基づき、店舗の責任者として、店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから、かかる立場にある店長が行う職務は、特段、労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容、性質であるとはいえない。

 そして、店長の勤務実態を併せ考慮すると、店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、十分であるといい難い。

 以上によれば、Yにおける店長は、その職務の内容、権限及び責任の観点からしても、その待遇の観点からしても、管理監督者に当たるとは認められない。

日産自動車(管理監督者性)事件(横浜地裁平成31年3月26日判決)

事件の概要

 Yの課長職を務めていたAの妻であるXが、Aの死亡によりその賃金請求権の3分の2を相続したとして、Yに対して割増賃金等の支払を求めた事例。

裁判所の判断

 労基法41条2号の趣旨は、管理監督者は、その職務の性質や経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任、権限を付与され、実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にある一方、他の一般の従業員に比して賃金その他の待遇面でその地位にふさわしい優遇措置が講じられていることや、自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていることなどから、労基法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないことにある。

 とすれば、労基法上の管理監督者に該当するかどうかは、①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである。

 なお、Yは、行政解釈(旧労働省の昭和63年3月14日基発第150号通達)を根拠に、④経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していること、⑤ライン管理職と同格以上の位置付けとされていることの要件があれば、管理監督者に該当すると認めるべきである旨主張するが、このうち⑤の要件は、上記③と同趣旨をいうものと解されるから、上記①から③とは別個の独立した要件・観点というよりも、そこでの考慮要素として判断すれば足りる。これに対し、上記④の点は、労基法41条2号の上記趣旨からすれば、単に、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当しているというだけでは足りず、その職務と責任が、経営者と一体的な立場にあると評価できることまでも必要とすると解すべきであるから、結局、上記④の点は、上記①の観点の検討の中で考慮される一つの要素にすぎない。

 Aは、自己の労働時間について裁量があり、管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとは認められないところ、これらの諸事情を総合考慮すると、Aが、管理監督者に該当するとは認められない。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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