コラム

2023/06/15

解決事例 ~名誉毀損(手紙の発送)に対する損害賠償請求~

事案の概要

 会社の従業員が、代表者等の名誉を毀損する内容の手紙を作成し、競業会社等に発送したため、当該従業員に対して、刑事告訴と損害賠償請求訴訟を行った事案です。

手続の流れ

 依頼者Xは、A会社の代表取締役を務めておりましたが、A会社を含む複数の会社に依頼者X等の名誉を毀損する内容の文書が届きました。

 文書が届いた当初は、犯人が誰であるか分からなかったので、依頼者Xは、すぐに警察署に相談しましたが、そうしたところ、警察官が当該手紙の指紋を採取する、A会社の事務所に訪れて従業員から事情聴取を行う等の対応をしました。

 そのような様子を見た従業員Yが、文書を送付した犯人は自分であった旨、白状しました。

 当該手紙の内容は悪質だったため、依頼者Xは、刑事告訴の手続を行うこととしました。告訴は受理され、加害者には罰金の有罪判決が言い渡されました。

 その後、依頼者Xは、損害賠償金額について、Yと交渉しましたが、折り合いがつかなかったので、訴訟を提起しました。

 訴訟上の和解において、Yが依頼者Xに65万円を支払うこと、Yが文書を発送したA会社の競業会社等に対して、以下のような謝罪文を送ることが約束されました。

冠省 私は、●●に所在するA会社の元従業員のYです。突然のお手紙失礼いたします。

私は、令和●年●月●日から同年●月●日にかけて、貴社に対し、Xの名誉を毀損し、また誹謗中傷する内容の手紙を送付してしまいました。

この手紙の送付は、私が、Xに対して募らせていた個人的な不満を解消するために行ってしまったものであり、記載内容は私の妄想に基づくものであり、全くの事実無根でございます。

同手紙の送付により、●及びその関係者各位に対して多大なるご迷惑をお掛けしましましたので、ここに謹んでお詫び申し上げます。  不一

コメント

 近年、SNSにおける名誉棄損に関するトラブルが増加していますが、本件は、手紙の送付による名誉毀損事件でした。

 名誉毀損事件においては、警察に相談に行っても犯人を特定してから来てほしいと言われるケースが多いです(犯人を特定することも警察の仕事かと思いますが…)。

 SNSにおける名誉毀損事件の場合は、発信者情報開示手続などを行って、書き込みをした人を特定しますが、本件のような手紙での名誉毀損の場合は、手紙に付着した指紋が犯人を特定する重要な証拠になります。

 そのため、届いた手紙にはできるだけ触れないようにして、警察に現物を持参して早期に動いてもらうことが重要です。

 また、本件においては、加害者も反省しており、各所に謝罪文を発送することも和解条項に組み込むことができました。

 謝罪文の送付は、慰謝料の支払いのみのケースよりも被害者の名誉回復に資するので良かったと思います。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

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