暗号資産(仮想通貨)交換業者に対する犯罪収益移転防止法の規制について
犯罪組織やテロ組織は、犯罪行為によって得た収益を、その出所を不明確にするためにいわゆるマネー・ローンダリング(資金洗浄)を行う場合があります。
日本では、こういった問題に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」が制定され、対策が行われています。
暗号資産(仮想通貨)交換業者もまた、犯罪収益移転防止法によって「特定事業者」と定められており、様々な規制を受けます。
規制の対象
暗号資産(仮想通貨)交換業者においては、「暗号資産(仮想通貨)交換業」全体が犯罪収益移転防止法の規制対象となる「特定業務」に指定されています。
さらに、この「特定業務」のうち「特定取引」と「ハイリスク取引」については、取引時の確認の規制対象とされています。
特定取引
特定取引は、以下のとおり、2つの類型に分かれます。
①対象取引
対象取引とは、犯罪収益移転防止法施行令第7条1項1号に列挙されている以下の取引のことをいいます。
- 暗号資産(仮想通貨)の交換等(次の①~③)を継続・反復して行うこと
①暗号資産(仮想通貨)の売買
②他の暗号資産(仮想通貨)との交換
③上記①、②の媒介、取次、代理 - 上記①ないし③に関して、利用者の金銭又は暗号資産(仮想通貨)の管理に関する契約の締結
- 200万円を超える暗号資産(仮想通貨)の交換等
- 暗号資産(仮想通貨)交換業に関し、管理する顧客等の暗号資産を当該顧客等の依頼に基づいて移転させる行為(暗号資産(仮想通貨)の交換等に伴うものを除く)であって、当該移転に係る暗号資産(仮想通貨)の価額が10万円を超えるもの
②特別の注意を必要とする取引
特別の注意を必要とする取引とは、対象取引以外の取引で、顧客管理を行う上で特別の注意を要するものとして以下に掲げる取引のことをいいます。
- マネー・ローンダリングの疑いがあると認められる取引
- 同種の取引態様と著しく異なる態様で行われる取引
ハイリスク取引
以下のいずれかに該当する取引をいいます。
- なりすましの疑いがある取引又は本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引
具体的には、次の取引をいいます。
- 取引の相手方が、取引のもととなる継続的な契約の締結(例えば、預貯金契約の締結)に際して行われた取引時確認に係る顧客等又はその代表者等になりすましている疑いがある場合の当該取引
- 取引のもととなる継続的な契約の締結に際して取引時確認が行われた際に取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等又はその代表者等との取引
- 特定国等に居住・所在している顧客等との取引
マネー・ローンダリング対策が不十分であると認められる特定国等(令和5年5月1日時点ではイラン及び北朝鮮)に居住している顧客等との取引等をいいます。 - 外国PEPs(重要な公的地位にある者(Politically Exposed Persons))との取引
下記の者との取引をいいます。
- 外国の元首
- 外国において下記の職にある者
・日本における内閣総理大臣その他の国務大臣及び副大臣に相当する職
・日本における衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長又は参議院副議長に相当する職
・日本における最高裁判所の裁判官に相当する職
・日本における特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表又は全権委員に相当する職
・日本における統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、海上幕僚副長、航空幕僚長または航空幕僚副長に相当する職
・中央銀行の役員
・予算について国会の議決を経、または承認を受けなければならない法人の役員 - 過去に上記1または2であった者
- 上記1ないし3の家族
- 上記1ないし4が実質的支配者である法人
規制の内容
1 取引時確認
暗号資産(仮想通貨)交換業者は、特定取引及びハイリスク取引を行う場合、以下の事項について確認する義務を負います。
特定取引(ハイリスク取引に該当しないもの)
- 本人特定事項
氏名、住所、生年月日(自然人の場合)
名称、本店・主たる事務所の所在地(法人の場合) - 取引の目的
- 職業(自然人の場合)、事業内容(法人の場合)
- 実質的支配者(法人の場合)
ハイリスク取引
- 上記に加え、資産および収入の状況
2 記録の作成・保存
暗号資産(仮想通貨)交換業者は、以下の記録を作成し、保存する義務があります。
①確認記録
取引時確認を行った場合に作成
- 記載事項
本人特定事項の内容
確認方法等 - 保存期間
特定取引等に関する契約終了から7年間
②取引記録
特定業務に係る取引を行った場合に作成
- 記載事項
確認記録を検索するための事項(確認記録がない場合は氏名等)
取引等の日付・種類・価額
財産の移転元・移転先の名義等 - 保存期間
取引等から7年間
3 疑わしい取引の届出
暗号資産(仮想通貨)交換業者は、特定業務に係る取引において、収受した財産が犯罪による収益であると疑われる場合、金融庁長官へ以下の事項を届け出なければなりません。
- 疑わしい取引の届出を行う暗号資産(仮想通貨)交換業者の名称および所在地
- 届出の対象となる取引が発生した年月日および場所
- 届出の対象となる取引が発生した業務の内容
- 届出の対象となる取引に関する財産の内容
- 暗号資産(仮想通貨)交換業者において知り得た届出の対象となる取引における取引時確認の事項
- 届出を行う理由
弁護士 川並 理恵
- 所属
- 大阪弁護士会
大阪弁護士会消費者保護委員会
全国倒産処理弁護士ネットワーク会員
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