コラム

2023/04/17

休職期間満了による退職

 休職制度は、法定の制度ではありませんが、就業規則において導入されている会社は少なくありません。

 昨今はメンタルヘルスの不調により休職を余儀なくされるケースも増加し、社会的に休職への関心が高まっています。

 本コラムでは、休職期間満了による退職・解雇について解説いたします。

休職とは

 休職とは、病気や怪我その他の理由によって労働者が一時的に労務を提供することが不能、又は不適当である場合において、使用者がその労働者に対して、労働契約は維持しながら、労務の提供を免除又は禁止することです。

 休職事由は様々なものがありますが、業務外の疾病に罹患して労務に従事することができない労働者に対して、労務提供を一定期間免除する休職を、私傷病休職といいます。

 私傷病休職の制度をどのように定めるかは会社の自由であり、会社の文化や規模等により様々です。休職期間は、勤続年数によって期間を変えている会社も多く、数ヶ月程度から数年にまで及ぶ場合もあります。

休職期間満了後の扱い

 休職期間満了時までに、休職事由が消滅していれば労働者は復職することになりますが、休職事由が消滅していない場合、就業規則において自動退職又は解雇となる旨の規定が定められていることが多いです。

 就業規則上、自動退職とする扱いになっている場合、使用者による特段の意思表示を必要とせず、当該労働者は休職期間満了をもって退職となります。

 一方で、就業規則上、解雇とする扱いになっている場合、使用者は当該労働者に対して解雇の意志表示をすることが必要になります。また、この場合、解雇制限、解雇予告、解雇権濫用法理の適用を受けることになります。

 休職期間中に休職事由が消滅した場合には、復職することになりますが、復職が可能かどうかの判断をめぐってトラブルとなるケースが増加しています。トラブルを未然に防ぐためにも、就業規則に復職の手続を明記し、その手続に沿って復職可否の判断を行う必要があります。

休職期間満了による退職扱い、解雇が認められない場合

 復職の可否については、医師の診断や意見を踏まえ、当該労働者が復職可能な程度に回復しているか否かを判断することになります。

 また、休職期間満了による退職扱い、解雇の判断については、職種・職務限定の合意がない労働者と、職種・職務限定の合意がある労働者を分けて考える必要があります。

職種・職務限定の合意がない場合

 従前の職務を通常程度に行えない場合であっても、当該労働者が他の軽易な職務であれば従事できることができ、会社として軽易な職務への配置転換が実現可能であったり、軽易な職務から慣らして従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合には復職を認めるのが相当とされます。

職種・職務限定の合意がある場合

 職種・職務限定の合意がある場合、労務提供の可否は、その限定された職種・職務について判断されます。

 この点について、従来は、元の業務が遂行できない以上、解雇は有効であるとの判断を下す裁判例がありました。しかし、その後に職種・職務限定の合意がある場合であっても、復職時点では元の業務を100%遂行できなくとも、比較的短期間において当該限定された業務への復帰が可能であれば、一定の配慮(復帰準備期間、教育訓練、リハビリ等)をすべきとする裁判例が出ました。ただし、そういった配慮が求められるのは、会社の経営上それほど問題がないときに限られるため、経営状態が悪い会社、中小企業などの従業員数が少ない会社、転換すべき他の職種・職務が想定できない会社などには求められない場合もあります。

 また、メンタルヘルスの不調によって休職に至った場合等、復職可能な程度に回復しているか否かを会社だけで判断することは難しいため、主治医や産業医の診断が重要となります。医師の診断を軽視したとみられるようなケースでは、会社が従業員を休職期間満了により解雇又は退職にした場合、無効と判断される可能性があります。

過去の裁判例

片山組事件(最高裁判所第一小法廷平成10年4月9日判決)

事案

 雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたX(従業員)が、バセドウ病に罹患したところ、Y(会社)は、工事現場での現場監督業務に従事することは不可能であり、健康面・安全面でも問題を生じると判断して、当分の間の自宅治療を命ずるとの業務命令を発しました。

 その後、Xの主治医の意見聴取が行われ、症状は仕事に支障がなく、スポーツも正常人と同様に行い得る状態であることなどが明らかになったため、YはXに対し、工事現場で現場監督業務に従事すべき旨の業務命令を発しました。

 Xは自宅治療中、現実に労務に服することはなかったため、Yは、不就労期間中を欠勤扱いとし、その間の賃金を支給せず、ボーナスも減額して支給しました。

 これに対してXが、自宅治療を命ずるとの業務命令は無効であると主張して、欠勤扱いとされた期間の賃金と減額分の賞与の支払を求めて、Yを提訴しました。

 一審はXの請求を一部認容しましたが、控訴審は、Xが現場作業に係る労務の提供が不可能であったことから、債務の本旨に従った労務の提供がなされていないとして、請求を棄却しました。

裁判所の判断

 裁判所は、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合において、就業を命じられた特定の業務について労務の提供が万全ではないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である、との判断を示しました。

 その上で、Xは、Yに雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、X提出の病状説明書の記載に誇張がみられるとしても、自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである。そうすると、直ちにXが債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、Xの能力、経験、地位、会社の規模、業種、Yにおける労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、Xが配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである、としました。

 そして、これらの点について審理判断をしないまま、Xの労務の提供が債務の本旨に従ったものではないとした原審の判断は、XとYとの労働契約の解釈を誤った違法があるものといわなければならないとし、原審に差し戻す旨の判断を示しました。

北海道龍谷学園事件(札幌高等裁判所平成11年7月9日判決)

事案

 授業中に脳出血で倒れ、右半身不随となり入院治療を受けていた高校の保健体育の教師Xが、2年あまり後に症状が回復したとして就業を申し出たところ、学校法人Yは、保健体育の時間講師として採用し様子を見るとの提案をしました。Xがその提案を拒否したため、Yは、就業規則の解雇事由である「身体の障害により業務に堪えられないと認めたとき」に該当するとして、Xを解雇しました。

 そこで、Xは、解雇は無効であるとして、Yに対し、労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを求めて、訴訟を提起しました。

裁判所の判断

 裁判所は、Xは、体育教諭として要請される保健体育授業での各種運動競技の実技指導を行うことはほとんど不可能であったし、教室内等の普通授業においても発語・書字力がその速度・程度とも高等学校の教諭としての実用的な水準に達しないことから多大の困難が予想され、Xの身体能力等は、体育の実技の指導・緊急時の対処能力及び口頭による教育・指導の場面等において、高等学校における保健体育の教員としての身体的資質・能力水準に達していなかったものであるから、保健体育教員としての業務に堪えられないものと認めざるを得ない、と判断しました。

 また、Xが、公民、地理歴史の教諭資格を取得したから同科目の業務に従事することができると主張した点について、Xは保健体育の教諭資格者として雇用されたのであるから、雇用契約上保健体育の教諭としての労務に従事する債務を負担したものである。したがって、就業規則の適用上、Xの「業務」は保健体育の教諭としての労務をいうものであり、公民、地理歴史の教諭としての業務の可否を論ずる余地はないというべきである、としました。

 また、学校における教員採用は学校が各教科ごとに教員の能力適性及び組織運営全般に対する総合的検討に基づいて行うものであること、YはXのために就業規則を改正するなどして解雇の意思表示までの間においてもできるだけ有利に処遇したことなどを併せて考慮すると、本件解雇が解雇権の濫用に当たるものということは到底できないと判断しました。

カントラ事件(大阪高等裁判所平成14年6月19日判決)

事案

 貨物自動車運転手である従業員Xは、平成8年9月から慢性腎不全の治療のため欠勤を続け、欠勤が6か月以上続いたため、会社Yは、Xを平成9年3月から休職扱いとしました。その後、Xは平成10年6月に「運転者の職務に復帰したい」旨を申し入れ、追って就労可能である旨の記載がある主治医の診断書を提出しました。これを受けて、Yが産業医の診察を受けさせたところ、産業医の診断は「就労不可」との診断であったため、YはXの復職を認めず、就労を拒否しました。その後、平成11年1月にXが再び産業医の診断を受けたところ、軽作業(デスクワーク)であれば就労可能と診断されたものの、Xの復職についての話合いはまとまらず、平成11年12月、Xは賃金の仮払を求める仮処分を申し立てました。そして、同仮処分事件の審尋期日において、XとYとの間に和解が成立し、Xは平成12年2月から復職することとなりました。

 Xは、平成10年6月に復職を申し出たにもかかわらず、平成12年2月まで復職を認めず賃金を支払わなかったことは不当であるとして、Yに対し、平成10年6月から現実に復職するまでの賃金及び賞与の支払を求めて、訴訟を提起しました。

裁判所の判断

 裁判所は、労働者がその職種を特定して雇用された場合において、その労働者が従前の業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には、原則として、労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供、すなわち特定された職種の職務に応じた労務の提供をすることはできない状況にあるものと解される。もっとも、他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとはいえないものと考えられる、との判断を示しました。

 その上で、Yは、就業規則において、従業員を従事する業務により職種の区分をしているものの、業務の都合により職種の変更もあることを予定しており、その職種のうち作業員は、運転者として雇用された者であっても就労が可能と考えられる。また、運転者の業務についても必ずしも長距離運転を前提とするものだけではなかったとして、Xの職務復帰可能の時期について、次のとおり判断しました。

 まず、平成10年6月時点で、産業医の診断を重視して復職を認めなかったことについて、産業医の判断の内容等に照らすと、Yの判断は正当というべきである、としました。

 他方、平成11年1月の2度目の産業医の診断では、産業医は軽作業であれば復帰可能であるとの診断をしたのであるから、Xが欠勤前のような長距離運転を含む業務に直ちに従事することは困難としても、時間を限定した近距離運転を中心とする運転業務であれば、復帰可能な健康状態にあったというべきであり、時間を限定しない作業員の業務も可能であったと認められる。このため、遅くとも平成11年2月1日には、業務を加減した運転者としての業務を遂行できる状況になっていたと認めることができ、Xは債務の本旨に従った履行の提供をしたものと認められる、と判断しました。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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