コラム

2023/01/16

ペットショップの法律問題 ~返金などの対応を求められた場合~

 ペットショップやブリーダーがペットを販売した場合、買主に引き渡された後で病気や障害等の問題が発覚することがあります。

 本コラムでは、そういった場合の法律問題について、事例を交えて解説いたします。

 なお、本コラムは、第一種動物取扱業を営む方向けのものとなります。

事例

①販売した子猫に先天性疾患があるとの理由で対応を求められている

②販売した子犬がウイルスに感染しており購入者が先に飼っていた成犬が感染し死亡したことを理由に対応を求められている。なお、契約書では、生き物なので返品、交換、損害賠償はできませんと明記していた。

ペット販売者の規制

 まず、ペット販売者は「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下「動物愛護管理法」といいます。)により、様々な規制を受けます。

登録

 ペットショップやブリーダーなど哺乳類など一定の種類の動物の販売業を営むには、「第一種動物取扱業」として都道府県知事や政令市長への登録が必要となります(動物愛護管理法10条)。登録するためには一定の条件が必要で、動物の取り扱いについて適切な知識や技術を持った動物取扱責任者を事業所ごとに設置する義務があり、養育施設の構造や規模、飼育管理方法などの条件も定められています。

動物取扱責任者とは

 以下いずれかの条件を満たす者を「動物取扱責任者」として事業所ごとに選任しなければなりません(動物愛護管理法22条、同法施行規則9条)。

  1. 獣医師
  2. 愛玩動物看護師
  3. 半年以上の実務経験(もしくは1年以上の飼養経験)および学校等の卒業
  4. 半年以上の実務経験(もしくは1年以上の飼養経験)および資格等

 なお、「実務経験」とは関連する動物取扱業における常勤の経験であり、「1年以上の飼養経験」は、単なる飼養経験ではなく、半年以上の実務経験と同等と見なされるものとされています。

ペット販売には事前説明が必須

 動物の販売にあたっては、事前にその動物の特性や状態について説明し、買主に理解してもらうことが、第一種動物取扱業者に求められています(動物愛護管理法21条の4)。この説明は、対面により文書(電磁的記録を含む)などで行うこととされ、買主から署名をもらうこととされています。購入する前に、販売しようとするペットの状態を直接見て確認してもらう必要もあります。さらに2019年の法改正で、事前説明は第一種動物取扱業の登録を受けた事業所で行うことが義務付けられました。

契約不適合責任

 民法において、売主は原則として中等の品質(標準的な品質)の物を供給しなければなりません(民法401条1項)。

 販売したペットに病気や障害があった場合、中等の品質とは言えないので、買主はペット販売者に対して、契約不適合責任として、履行の追完請求ができます(民法562条1項)。

 なお、「履行の追完請求」は、特約で排除することができます(民法572条)。

履行の追完請求の内容

 履行の追完請求の内容としては

  • 目的物の修補
  • 代替物の引き渡し又は不足分の引き渡し

を請求することができます。

 「目的物の補修」とは、病気の治療を求めること、また「代替物の引き渡し」の請求とは、代わりに同種のペットの引き渡しを求めることになります。

 ただし、売主は、買主が不相当な負担を負わない場合は、買主が請求した方法とは異なる方法で、履行の追完をすることができます(民法562条1項但書)。

 売主が履行の追完に応じない場合、不適合の程度に応じて代金減額請求を受ける可能性があります(民法563条)

 契約不適合責任を追求する場合、原則として、不適合を知った時から1年以内にその旨を通知しなければなりません。1年以内に売主に通知しなければ、売主が商品の引渡し時に不適合であることを知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合を除いて請求ができなくなります(民法566条)。

債務不履行責任

 また、買主は中等の品質の物の提供がないのは債務不履行に当たるとして、

  • 損害賠償請求(民法415条)
  • 契約の解除(民法541条)

をすることができます。

損害賠償請求

 履行の追完請求が成就する、しないに関わらず、売主の債務不履行により損害を被った買主は、売主に対して損害賠償を請求することが出来ます。損害賠償の対象は、債務の不履行によって通常生ずるべき損害となります。

契約の解除

 買主が代わりのペットの提供の請求などをしたにもかかわらず、売主がこれに応じない場合は、売主に対して相当の期間を定めて履行を催告し、それでもなお売主がその期間内に履行を行わない場合は、買主は契約を解除することが出来ます。

 契約の解除によって売主、買主双方が原状回復義務を負いますから、売主は売買代金を返還し、買主はペットを返還します。なお、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げないので、買主はなお損害賠償請求権を行使できます。

相当因果関係

 契約不適合責任を追求する場合でも、債務不履行責任により損害賠償請求や契約の解除をする場合でも、引き渡し前からペットに病気や障害があったかどうかが売主と買主の間で争いになる可能性が高いと考えられます。

 この点、動物の病気の感染経路をたどり、感染時期や感染経路を特定することは非常に困難な作業となります。また、障害も先天的なものか後天的なものか判断が難しい場合もあります。

 買主が売主に対し損害賠償請求などの裁判を起こした場合に裁判所がどのような判断をするのかは不透明な部分が多いのも事実です。

 このような買主とのトラブルをできるかぎり減らすために、ペットの販売時に、販売時から間もなくペットが病気になって病院治療を受けた場合や死亡した場合の解決方法を契約書に特約として定めておくことが有益です。

免責条項の有効性

 ペット購入時の契約書に「一切の返品・交換を認めない」という免責条項が入っていた場合、その条項の有効性は認められるのでしょうか。

 当該条項は買主の追完履行請求件や契約解除の主張を制限するものと考えられます。この場合、消費者である買主の権利を制限する内容であり、かつ信義則の原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとして、消費者契約法10条によって無効とされる可能性があります。

 また、条項に内容によっては、損害賠償請求権を一切認めないことを内容としている場合であれば、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」(消費者契約法8条1項1号)に当たるとして、無効とされる可能性もあります。

事例へのあてはめ

事例①の場合

 先天性疾患がある子猫は、疾患の内容によっては、品質に関して契約の内容に適合しないものといえると思います。

その場合、買主から契約不適合責任により、

  • 疾患の治療をしてほしい
  • 別の子猫を引き渡してほしい

などの対応(追完請求)を求められる可能性があります。

 また、ペット販売業者は、動物愛護管理法に基づき、販売する動物の病歴、その親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況を含む特性および状態に関する情報を把握して買主に説明することが求められます(動物愛護管理法21条の4、同施行規則8条2の第2項)。したがって、先天性疾患の内容にもよりますが、先天性疾患のある子猫をそれと認識できないまま提供したことについてペット販売業者の帰責事由がないとされる判断されるケースは多くはないと思われます。

 先天性疾患の子猫を販売したことについてペット販売業者の帰責事由がある場合、債務不履行に基づくものとして

  • それまでにかかった通院費、治療費を支払ってほしい

との対応(損害賠償請求)を求められる可能性があります。

 また、買主からの別の子猫を引き渡して欲しい等の請求に応じなかった場合には、

  • 売買代金を減額してほしい

との対応(代金減額請求)や

  • 子猫を返却するので、代金を返してほしい

との対応(売買契約の解除)を求められる可能性があります。

事例②の場合

 本事例のようにほかの犬を死に至らしめるようなウイルスに罹患している場合には、中等の品質を充たしていないと考えられるでしょう。この場合、基本的には事例①と同様の説明となります。

 次に、販売した子犬のウイルスによって先に飼育していた成犬が死亡したわけですが、こうした拡大損害についても、売主に帰責事由のある債務不履行と相当因果関係のある損害といえるかどうかが問題となります。

 この点、犬の購入者が既に別の犬を飼育していること、ウイルスに罹患した犬を提供すれば既存の犬にも感染し、それにより死に至ることは通常ありえることですので、その犬の死亡により買主が被った損害は売主の債務不履行と相当因果関係があるといえます。

 したがって、死亡した成犬の治療費、合理的な葬儀費用や成犬の時価相当額を損害として賠償することとなります。

 なお、消費者契約法8条1項1号は、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除とする条項は無効としているため、「生き物なので返品・交換・損害賠償はできません」との契約内容は無効となることがあります。

まとめ

 ペット販売業者には様々な法的責任が生じます。

 トラブルが生じてしまった場合には速やかなに弁護士に相談していただき、また、トラブルが生じる前にもご使用中の契約書が十分なものであるかを相談されることをおすすめいたします。

弁護士 石堂 一仁

所属
大阪弁護士会
大阪弁護士会 財務委員会 (平成29年度~令和5年度副委員長)
大阪弁護士会 司法委員会(23条小委員会)
近畿弁護士会連合会 税務委員会 (平成31年度~令和5年度副委員長、令和6年度~委員長)
租税訴訟学会

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