コラム

2022/11/14

スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメント⑴

 スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントの問題は、比較的近年になってクローズアップされてきた問題であり、メディア等でも多く取り上げられています。

 本コラムでは、今後3回にわたってスポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントについて解説いたします。

スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントの背景

 スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントの背景には、指導者と選手間に権力関係が存在し、被害者が拒みにくい状況があります。

 また、スポーツ指導の場においては、以下のような特徴があると考えられます。

  • 指導や治療と称して身体的接触が行われやすい。
  • 個別指導の名のもとに、指導者と選手だけの二人きりになりやすい。
  • 指導者が選手との良好な関係を築こうとして、過度にプライベートな事情を聞こうとする。
  • 選手選考・試合出場等、選手活動の権限を指導者が握っている。

スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントの意義

 以下では、一般的な、職場におけるセクシャルハラスメントを参照しつつ、スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントの意義について、解説いたします。

職場におけるセクシャルハラスメント

 職場におけるセクシャルハラスメントについては、厚生労働省がまとめた「ハラスメント対策マニュアル」、「セクハラ防止指針」等において、以下のとおり、定義・類型化されています。

【職場におけるセクシャルハラスメントの概念】
 職場におけるセクシャルハラスメントとは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり(「対価型セクシャルハラスメント」)、「性的な言動」により就業環境が害されたり(「環境型セクシャルハラスメント」)することをいう。
 また、「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指す。

⑴ 性的な内容の発言
(具体例)
・ 性的な事実関係を尋ねること
・ 性的な内容の情報(噂)を流布すること
・ 性的な冗談やからかい
・ 食事やデートへの執拗な誘い
・ 個人的な性的体験談を話すこと

⑵ 性的な行動
(具体例)
・ 性的な関係を強要すること
・ 必要なく身体へ接触すること
・ わいせつ図画を流布・掲示すること
・ 強制わいせつ、強姦など

【職場におけるセクシャルハラスメントの類型】
⑴ 対価型セクシャルハラスメント
 労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外等の不利益を受けること。
(具体例)
・ 事務所内で経営者が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇した。
・ 出張中の車内において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換を行った。
・ 営業所内で経営者が日頃から労働者の男女関係について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格した。

⑵ 環境型セクシャルハラスメント
 労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
(具体例)
・ 事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下した。
・ 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかない。
・ 労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できない。

スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメント

 スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントについては、文部科学省が、上記セクシャルハラスメントの定義等を参照してまとめた「スポーツ指導における暴力等に関する処分基準ガイドライン(試案)」において、以下のように定義しています。

(イ)セクハラ
性的な言動・行動等であって、当該行動・言動に対する競技者の対応によって、当該競技が競技活動をする上での一定の不利益を与え、若しくはその競技活動環境を悪化させる行為、又はそれらを示唆する行為も含まれるとする。

 このように、スポーツ指導の場においても、一般的な職場と同様に、性的な言動によりスポーツ環境を不快なものにする「環境型セクシャルハラスメント」と、性的な言動への対応により、指導の仕方や選手選考において不利益を与える「対価型セクシャルハラスメント」とに類型化することができます。

 そして、スポーツ指導の場において、セクシャルハラスメントに該当するかどうかの判断基準は,一般的な職場におけるセクシャルハラスメントの判断基準が参考にされています。

スポーツ界におけるセクシャルハラスメントの具体例

 スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントに該当する指導者の具体的行為としては、以下のものが考えられます。

  • ひわいな言葉や性的内容の冗談を言う、からかう。
  • 恋愛・妊娠・結婚などのプライベートで性的な私生活についてたずねる。
  • 頼まれていないのに身体に触れる,マッサージやテーピングをする。
  • 選手を二人きりの食事やデートに誘う。
  • 性的な指向等を理由にからかう、侮辱する、無視する。
  • 裸あるいは裸に近い格好で練習させる。

最後に

 スポーツ指導の場におけるセクシャルハラスメントは、多くの場合、目に見えにくいところで起こっています。

 また、相手に触れることが一般的とは言えない職場と異なり、スポーツ指導の場においては、必要に応じて相手の身体に触れることが許容される場合がありうるため、行為そのもので線引きすることが困難です。

 このような特徴があるため、指導者については、常に誤解を招かないような配慮が求められます。また、選手についても、セクシャルハラスメントを容認するのではなく、周りに相談することが大切です。

 問題や疑問に思っていることがあれば、ぜひご相談ください。

弁護士 有本 圭佑

所属
大阪弁護士会

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