コラム

2022/11/07

不貞行為と遅延損害金の起算点

 不貞行為を理由とする慰謝料請求において、慰謝料とあわせて遅延損害金の請求を行うことが可能です。

 遅延損害金とは、債務者が金銭債務の履行を遅滞したときに、遅滞による損害を賠償するために支払われる金銭をいいます。

  本コラムでは、不貞行為を理由とする慰謝料請求において、遅延損害金がいつから発生するか(=遅延損害金の起算点)について解説いたします。

不法行為に基づく遅延損害金の起算点

 不法行為に基づく損害賠償請求において、遅延損害金の起算点は、損害の発生時期である不法行為時であると理解されています。

 そのため、不貞行為が1度きりであれば、当該不貞行為に及んだ日が遅延損害金の起算点になります。

 しかしながら、不貞行為の性質上、その不貞行為が1度きりで終了するということは少なく、関係が一定の期間、継続することが多いと思われます。

 このように、継続的な不貞行為があった場合、遅延損害金の起算点をどのように考えるべきか、以下の3つのパターンに分類して解説いたします。

  1. 不貞行為が訴訟提起前に終了した場合
  2. 不貞行為が訴訟中に終了した場合
  3. 不貞行為が現在も継続している場合

不貞行為が訴訟提起前に終了した場合

 不貞行為が複数回行われていたものの、訴訟を提起した段階では終了していた場合です。

 不貞行為による慰謝料請求を行う際に、最も多い事例と考えられます。

 この場合の遅延損害金の起算点は、

㋐不貞行為が開始した時点

または

㋑不貞行為が終了した時点

が考えられます。

不貞行為の開始時を遅延損害金の起算点とする裁判例

・東京地裁平成28年9月29日

・東京地裁平成29年3月16日

・東京地裁平成30年4月12日

など

不貞行為の終了時を遅延損害金の起算点とする裁判例

・東京地裁平成29年11月15日

・東京地裁平成30年5月25日

・宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日

など

 上述のように裁判例は分かれていますが、不貞行為の終了時を遅延損害金の起算点とする裁判例が多い印象です。

不貞行為が訴訟中に終了した場合

 不貞行為の終了時を遅延損害金の起算点とする見解にたった場合、不貞行為が訴訟中に終了したときに遅延損害金の起算点をどのように考えるべきか、問題となります。

 この点、民事訴訟において、裁判所は、口頭弁論終結時に存在する主張のみを判決の基礎にできるとしています。

 そのため、口頭弁論終結前に不貞行為が終了した場合には、不貞行為の終了時が遅延損害金の起算点となると考えられます。

 また、口頭弁論終結後、判決前に不貞行為が終了した場合には、口頭弁論終結後の事情を判決の基礎にすることはできないため、口頭弁論終結時を遅延損害金の起算点と考えることになると思われます。

 口頭弁論終結後の不貞行為は、口頭弁論終結前の不貞行為とは別の不貞行為であるとして、口頭弁論終結時で不貞行為はいったん終了したと考えることができるからです。

不貞行為が継続している場合

 不貞行為の終了時を遅延損害金の起算点とする見解にたった場合、不貞行為がその後も継続しているときに遅延損害金の起算点をどのように考えるべきか、問題となります。

 この点、上述のとおり、口頭弁論終結後の事情を判決の基礎にすることはできません。そのため、口頭弁論終結後の不貞行為は、口頭弁論終結前の不貞行為とは別の不貞行為であると考え、口頭弁論終結時でいったん不貞行為は終了したとして、口頭弁論終結時を遅延損害金の起算点と考えるべきです。 

婚姻関係が破綻していた場合

 上述のとおり、①不貞行為が訴訟提起前に終了した場合、②不貞行為が訴訟中に終了した場合、③不貞行為が継続している場合の3つのパターンに分類して解説してまいりましたが、不貞行為が終了する前に婚姻関係が破綻していた場合は注意が必要です。

 なぜなら、婚姻関係破綻後の不貞行為については、そもそも不法行為が成立しないからです。

 そのため、不貞行為開始後に婚姻関係が破綻した場合には、その時点を不貞行為が終了した時点と考えて、上述の3つのパターンにあてはめて考えることになると思われます。

まとめ

 不貞行為による慰謝料請求訴訟の実務において、遅延損害金の起算点が大きな争点になることは多いとはいえませんが、訴えの提起を考えておられる方は、参考にしていただければと思います。

 なお、当事務所では、ご来所されるすべての方、関西2府4県のお住いで、電話・Zoomでのご相談を希望される方を対象に、無料法律相談(初回30分)を実施しております。不貞行為に関する問題についてお悩みの方は、ご相談ください。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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