コラム

2022/10/10

不貞行為と誓約書

 配偶者の浮気(不貞行為)が発覚した際に、夫婦間で、「二度と浮気をしない。今後浮気をした場合には、〇万円を支払うことを約束する」といった内容の念書や誓約書を作成したうえで、夫婦関係の修復を目指す場合があります。 

 本コラムでは、不貞行為を行った配偶者が、他方配偶者に対して差し入れた誓約書のメリットや効力などを解説いたします。

誓約書を作成するメリット

不貞行為の証拠を残すことができる

 不貞行為を行った配偶者に誓約書を作成してもらうことによって、少なくとも、誓約書を作成した時点において、その配偶者は誓約書に記載している内容の不貞行為の事実を認めていたとの証拠を残すことができます。

 後に不貞行為を行った配偶者が不貞の事実を否定したり、浮気相手が不貞の事実を否定したりした際には、誓約書が有益な証拠になるでしょう。

不貞行為の再発を防ぐ

 夫婦間で誓約書を作成することにより、不貞行為を行った配偶者に心理的なプレッシャーを与え、不貞行為の再発抑止の効果を期待することができます。

違反時の慰謝料を定めておくことで、相場よりも高額の慰謝料を得ることができる可能性がある

 不貞行為の慰謝料の相場は、具体的な事情にもよりますが、おおよそ50万円~300万円とされております。不貞行為を行った配偶者に、相場よりも高額の慰謝料を支払うことを誓約してもらうことによって、将来配偶者が誓約内容に違反した場合に、その慰謝料を得られる可能性があります。

誓約書の効力

夫婦間で誓約書を作成していたとしても、誓約書の法的な効力については、後に争いになる場合が多いです。

参考判例

東京地裁平成29年10月17日判決

 内縁の夫婦間で、夫が不貞行為をした場合は妻に慰謝料500万円を支払う旨の合意をした後、夫が不貞行為をしたとして、妻が夫に対して慰謝料の請求を求めた事案です。

 本事案では、夫の女性関係の懸念が解消されないことから妻が誓約書の作成を求め、夫が、これに応じて二度と不貞行為を行わないことを誓う旨、不貞行為等に及んだ場合は慰謝料として妻に500万円、長女に200万円を支払う旨記載して署名押印するなどして誓約書を完成させて妻に交付し、妻はこれを受領したとの事実を前提に、夫婦間で夫による不貞行為を停止条件として妻に500万円支払う旨の合意が成立したとしました。そして、夫は合意成立後に不貞行為をしているから合意の停止条件は成就したとして、合意による500万円の支払を認めました。

民法132条との関係

 民法132条は、「不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。」と規定しています。

 不貞行為も不法行為の一種ですので、民法132条により不貞行為を行うことを条件として金銭の支払いを約束する誓約書は無効と考える余地もあります。

 なお、不貞行為が民法132条の「不法」に該当することは認めつつも、その約定自体が不法な性質を与えるものではないことを理由として、かかる合意を民法132条により無効としない旨の判断をした裁判例もあります(浦和地裁昭和26年10月26日判決)。

公序良俗違反との関係

 慰謝料の相場よりも著しく高い金額の合意を行った場合、公序良俗違反により無効であるとして争いになることが懸念されます(民法90条)。

 この点、いくらであれば公序良俗違反であると一概はいえませんが、東京地裁平成29年9月27日判決は、不貞相手との間で慰謝料500万円を支払う旨の覚書を作成した事案において、「不貞に関する慰謝料額としてはいささか高額であることは否めないが、著しく高額というものではなく、本件不貞があったことは被告も自認している以上、500万円の慰謝料の支払義務を負わせることが原告による暴利行為とまでいえない。」と判断しています。

 また、公序良俗違反が争点になった事案ではありませんが、東京地裁平成28年11月24日判決では、元夫が婚姻中の不貞行為を認め、慰謝料(1000万円)の支払を約束した書面(念書)の有効性が争われた事案において、裁判所はその有効性を認め、妻の夫に対する1000万円の請求を認めました。

その他の問題

 その他、心裡留保、錯誤、詐欺、強迫、夫婦間の契約取消権などにより、誓約書の効力を争われることもあります。

まとめ

 このように、誓約書の作成にはメリットがある一方で、後に争いが生じることも多いです。このような問題でお悩みの方は、ご相談ください。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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