誤振込みを知りながらお金を引き出してしまった場合に成立しうる犯罪について
最近、山口県阿部町の職員が一人の男性に対して誤って4630万円を振り込んでしまったところ、当該男性が同金員を使い込んでしまったことがニュースになっています。
令和4年5月19日、この男性が、電子計算機使用詐欺罪で逮捕されたとの報道がありました。
本コラムでは、誤振込みを知りながらお金を引き出してしまった場合に成立しうる犯罪について説明いたします。
銀行窓口で誤振込みにかかる金銭を引き出した場合
最高裁判所決定平成15年3月12日(刑集57巻3号322頁)は、銀行にとって、払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かは、直ちにその支払いに応ずるか否かを決定する上で重要な事柄であり、受取人においても、自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には、銀行に上記の措置(誤振込みを振り込み依頼前の状態に戻す組戻し手続き)を講じさせるため、誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があるとして、誤振込みの事実を知った受取人がその情を秘して預金の払戻し請求をすることは詐欺罪に該当すると判断しました。
簡単に言えば、銀行の窓口職員を騙して、払戻し手続きを受けたので詐欺が成立するという判断です。
ATMでお金を引き出した場合
ATMは機械の操作によって、お金を引き出す行為ですので、人を騙したとはいえません。
しかし、銀行の意思に反して、金銭の占有を移転させたといえるので窃盗罪が成立するとされています。
ATMで他の口座に振替送金をした場合
この場合は、電子計算機使用詐欺罪(246条の2)が成立するとされています。
電子計算機使用詐欺罪は、条文上「前条(詐欺罪)に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。」と記載されています。
すなわち、銀行のオンラインシステムやATMに虚偽の情報を入力して、別口座に振込送金手続きを行う場合に適用されます。
なお、本コラムは、阿部町の誤振込み事件に適用されるべき犯罪を論じているものではなく、誤振込み事件の一般論を説明しているものです。
弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
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