遺言執行者について
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遺言執行者
遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現させる人をいいます。相続人の代理人として遺言書に書かれている内容に沿って相続財産を管理し、名義変更など各種手続を行います。
遺言の執行は、相続人自身が行えるため、遺言執行者の選任が不可欠なわけではありません。しかし、法は、子の認知や相続人の廃除・その取消など、遺言執行者を置かなければならない場合を明文で規定しています。
遺言執行者の権利義務
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
任務開始の通知義務
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。
相続登記の申請権限
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(「特定財産承継遺言」といいます。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
民法第899条の2第1項
預貯金の払戻し・解約の権限
特定財産承継遺言がある場合で、その財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、その預貯金の払戻しの請求及びその預貯金に係る契約の解約の申入れをすることができます。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限ります。
認知
遺言による認知を行った場合、遺言執行者は就任の日から10日以内に戸籍上の届出をしなければなりません。
廃除やその取消
遺言による相続人の廃除および廃除の取消については、 遺言執行者が家庭裁判所に請求を行い、確定後に戸籍上の届出をする必要があります。
訴訟追行
遺産や遺言執行に関する訴訟が提起された場合には、遺言執行者が訴訟当事者となります。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者は、遺言で指定される場合と、家庭裁判所により選任される場合とがあります。
遺言執行者の欠格事由
未成年者、破産者は遺言執行者となることができないとされています。
遺言執行は、財産上の行為を取り扱うので相応の判断力や財産管理能力が要求されます。そのため、このような欠格事由が設けられているのです。
遺言の効力は遺言者の死亡時に発生するため、遺言執行者の欠格事由は、遺言者の死亡時を基準にして判断します。
例えば、遺言作成時には未成年であった人を遺言執行者として指定した場合でも、遺言者の死亡時にその人が成人となっていれば欠格事由には該当しません。
また、遺言作成時には、遺言執行者として指定された人が破産者でなかったものの、遺言者の死亡時に破産者となってしまった場合には、その人は欠格事由に該当することになります。
遺言執行者に対する報酬
遺言執行には、時間や労力、法律的知識を要することが多いため、遺言執行者の職務の対価として何らかの報酬が支払われることが通常です。
この報酬はどのように決定されるのかが問題となります。
報酬の決定方法
遺言執行者に対する報酬は、 遺言に記載があれば、その内容に従います。 遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定することとなります。
協議が整わないときは、相続財産の状況、 その他の事情(例えば、執行行為の複雑性や、執行行為に要した時間等)を考慮して家庭裁判所が決定します (民法1018条)。
信託銀行や弁護士に遺言執行を依頼する場合には、事前に報酬を確認しておくとよいでしょう。
遺言執行者の辞任と解任
遺言執行者が指定または選任された場合でも、任務の継続ができなくなった場合や、不適切な行為があった場合などは、遺言執行者の辞任や解任が認められています。
遺言執行者の辞任
遺言執行者は、正当な事由がある場合には、家庭裁判所の許可を得てその任務を辞することができます。正当な事由とは、長期間の病気や遠隔地への引越し等、遺言執行が客観的に困難と認められる状態をいいます。
辞任を希望する遺言執行者は、相続開始地の家庭裁判所に対して辞任許可の審判を申し立てる必要があり、その中で正当な事由の有無が判断されます。
辞任に制限が設けられているのは、遺言執行者の任務の重要性に鑑み、一方的な辞任によって相続人に不測の損害を与えないためです。
遺言執行者の解任
遺言執行者が任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係人(相続人や受遺者等)は、遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求することができます。解任の事由は、遺言執行者が実施すべき行為を行わずに放置していた場合のほか、一部の相続人のみを有利に取り扱っている場合や、病気等により円滑な遺言執行が期待できないような場合も含まれます。
解任を希望する利害関係人は、相続開始地の家庭裁判所に対して解任の審判を申し立てる必要があり、その中で解任事由の有無が判断されます。
辞任・解任後の措置
引き続き遺言執行者が必要となる場合には、新たな遺言執行者の選任を家庭裁判所に対して請求することになります。
小西法律事務所