コラム

2022/02/07

【解決事例】強盗致傷被疑事件の被疑者が不起訴処分となった事例

事案の概要

 依頼者Xは、酩酊した状態でタクシーに乗りましたが、途中、車内で嘔吐してしまったため、タクシー運転手によって、いったんタクシーから降ろされました。そうしたところ、Xは、運賃を支払うことなく歩き始めてしまったため、タクシー運転手が運賃の支払いを求めてXを制止したところ、両者はもみ合いになり、Xがタクシー運転手を殴打してしまい、結果として運賃の支払いを免れたという事件です。

手続の流れ

該当する罪名

 Xは、タクシー運転手(以下「被害者」といいます。)の通報により、直ちに警察官に逮捕されました。

 本件は、被害者に怪我を負わせ、運賃の支払いを免れたという事件でしたので、強盗致傷罪という罪名で捜査が進んでいました。

 強盗致傷罪(刑法240条)の法定刑は、無期または6年以上の懲役であり、裁判員裁判の対象にもなる非常に重たい犯罪です。

Xの希望

 Xは、酩酊していたとはいえ自身が犯罪を犯して、被害者に迷惑を掛けてしまったことを悔いており、被害弁償を行い、示談を成立させたいとの意向がありました。

 この点、犯罪を犯したことに争いがない場合でも、被害者と示談ができれば、不起訴処分になる場合があります。

 そこで、まずは被害者に対する被害弁償を行い、示談を成立させたうえで、不起訴処分となるよう検察官と交渉する、との方針で弁護活動を行うこととなりました。

示談交渉の流れ

 本件では、被害者にも弁護士が就任し、弁護士間での示談に関する協議が行われました。

 被害者からは、タクシークリーニング代、運賃、治療費、慰謝料、後遺症に基づく逸失利益を含む損害賠償金として、約400万円の支払いを提案されました。

 しかしながら、Xの記憶では、本件の暴行の態様は、もみ合った際にタクシー運転手の頭部を数発殴打してしまったというものでした。

 このような暴行の態様からすれば、被害者が後遺症を負うような怪我を負ったとは考え難かったので、被害者側に対し、損害賠償の根拠となる資料(診断書、診療録、休業損害証明書、源泉徴収等)の提出をお願いしました。

 すると、二つの病院の診断書が出てきました。

 一つは、「頭部打撲、右頬部打撲、左肢擦過傷、右足関節捻挫疑い、全治約2週間」、もう一つは、「右小指伸筋腱断裂、右第5指骨折疑い、安静加療8週間」というものでした。

 一つ目の診断書の記載は、Xの記憶に合致する内容でしたが、二つの目の診断書は、本件と関連性のない怪我の可能性が高いと考えられたため、二つ目の診断書にかかる症状については、否認した上で、示談交渉をすすめました。

 その結果、Xが被害者に対して、120万円を支払い、被害届を取り下げてもらうという内容で示談が成立しました。

 また、同示談の内容について検察官に報告したところ、結果として不起訴処分となりました。

コメント

 刑事弁護人として被害者と示談交渉を行う場合、被害者の方に納得していただくことはもちろんですが、示談交渉を進めるスピード感も重要です。そのため、担当検事と密に連絡を取り合い、進捗状況を説明し、起訴するか不起訴にするかの判断を待っていただくようお願いすることもあります。

 また、本件では、示談の金額も問題になりました。

 被害者が主張する金額は高額であり、Xとしては支払いが難しいものでした。その内容が加害行為と因果関係があるものであれば、当然支払いは免れませんが、因果関係のない損害は、本来支払う必要ないものです。そのため、示談を行うにあたっては、法律上相当な損害賠償金額がいくらなのかを把握したうえで、どの程度の支払いであれば許容できるのかを検討しながら、被害者側との協議を進めていくことになります。

 なお、示談金の金額を争う場合、結果として、被害者と示談が成立しない場合もあります。

 その場合は、当方に因果関係のある損害賠償金額を詳細に説明し、実際にその金額を被害者に対して支払ったり、弁済供託をしたりするなどして、できる限りの対応を行った上で、その旨を検察に報告することになります。

 その結果、示談が成立していなくても、不起訴処分となる場合もあります。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

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