遺言の撤回
遺言の撤回とは、特段の理由なく、撤回者の一方的な意思によって、遺言を行わなかった状態に戻すことをいいます。遺言書は遺言者の最後の意思を尊重するものですので、遺言者が生きている間は、いつでも何度でも遺言の全部または一部を撤回することができます。
目 次 [close]
撤回の時期
遺言者は、いつでも遺言の全部又は一部を撤回することができます。
遺言は、 遺言者の最終意思に法律上の効力を認めようとする制度です。 遺言者が死亡する瞬間にその意思を明らかにすることは不可能ですので、 遺言者が生前に遺言という形で意思を明確にして死亡した場合には、その遺言内容を遺言者の最終意思と認めることとしています。
そして、遺言の作成後に遺言者の意思が変化した場合には、いつでも遺言を撤回することが認められています。
撤回の方式
遺言を撤回すること自体は自由ですが、決まった方式に従って行わなければ、撤回が無効になってしまうので注意が必要です。
自筆証書遺言の場合
遺言書を破棄すれば撤回したことになります。また、遺言書を新しく作成して、「前の遺言を撤回する」としても撤回したことになります。
自筆証書遺言書の保管申請の撤回
法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言保管法」といいます。)において、自筆証書遺言書の保管制度が新設されましたが、遺言者が、自筆証書遺言書の保管を申請した場合でも、遺言者はいつでもその遺言書を保管している遺言書保管場所の遺言書保管官に対して、保管申請の撤回をすることができます(遺言保管法第8条1項)。
なお、保管申請の撤回をしても、遺言書や管理情報の保管がなくなるだけであって、遺言書の効力が否定されるわけではありません。
遺言書の効力をなくするためには、保管申請の撤回とは別に、その遺言書を撤回する必要があります。
公正証書遺言の場合
遺言者が手元の公正証書遺言の正本を破棄しても、 原本が公証役場に保管されているので、遺言の撤回にはなりません。そのため、公正証書遺言を撤回するためには、新たな遺言を作成する方法がよいでしょう。新たな遺言は公正証書遺言、自筆証書遺言のどちらでも構いませんが、のちの相続トラブルを避けるため、公正証書遺言や、自筆証書遺言保管制度を利用する方法が望ましいでしょう。
秘密証書遺言の場合
遺言書を破棄する、新たな遺言書を作成する等行えば、秘密証書遺言を撤回したことになります。
撤回の効力発生時期
遺言の撤回の効力が生じるのは遺言の効力発生時、すなわち遺言者の死亡時であると考えることもできます。しかし、撤回は遺言そのものではないこと、後述の抵触行為や遺言書の破棄等による撤回擬制の効果は行為時に直ちに生じることとの均衡から、遺言の方式に従った撤回がされると同時に撤回の効力が生じると考えられています。
撤回擬制
撤回擬制とは、遺言者の撤回の意思表示がなされていなくても、一定の事実があったときには、遺言の撤回とみなされる場合のことをいいます。
前の遺言が後の遺言と抵触するとき
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。
遺言後の法律行為と抵触するとき
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合は、その抵触する部分については、前の遺言を撤回したものとみなされます。
撤回された遺言の効力
遺言を撤回する行為自体が撤回され、取り消され、または効力を生じなくなるに至ったときであっても、一度撤回された遺言の効力は復活しません。
遺言者が旧遺言を復活させる意思を有していたか否かを遺言者の死亡後において確認するのは困難ですし、遺言者が旧遺言を復活させることを希望していたなら、旧遺言と同一内容の遺言を改めて作成することができたはずであったからです。
もっとも、撤回行為が、詐欺または強迫を理由に取り消された場合には、旧遺言を復活させる遺言者の意思は明確ですので、旧遺言の効力が復活します。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
この弁護士について詳しく見る