コラム

2021/11/22

【相談事例】婚約の成立について

相談の概要

 関西に居住していた相談者Xは、関東に居住していた交際相手男性Yとの間で、結婚の約束を行いました。

 その後、相談者Xは、男性Yが居住していた関東へ引っ越しをするために、関西の勤務先を退職しましたが、突然、男性Yから、別れてほしいとの話をされてしまいました。

 相談者Xは、男性Yに対する慰謝料請求を検討していますが、そもそも、婚約指輪を受け取ったり、結納を交わしたり、結婚式場の予約をしたりするなどをしていなかったため、相談者Xと相手方Yとの間で婚約が成立していたといえるのかがわからず、当事務所に相談に来られました。

弁護士の回答

 婚約つまり婚姻予約を破棄した場合には、損害賠償請求をすることができます(最判昭38・9・5民集17・8・942、最判昭38・12・20民集17・12・1708)。

 そこで、損害賠償請求を行うにあたり、そもそも婚約が成立していたのか否かが問題となりますが、この点、判例においては、「婚約は、将来夫婦になろうという男女間の真摯な合意があれば足り、特段の形式を要しないものと解される」(東京地判平25・11・6)等とされています。

 そのため、婚姻指輪を受け取っていたり、結納を済ませていたり、結婚式場の予約をしていたりすれば、婚約が成立していたとの認定はされやすいのですが、必ずしもこれらがなければ婚約成立が認められないというわけではありません。

婚約の成立が認められた裁判例

  • 両親に将来結婚する相手として紹介したことや約1年間同居していたこと等を認定し、慰謝料請求を認めたもの(東京地判平21・7・30)
  • 勤務先に結婚の報告をしていたことや両親と結婚式の費用の話をしていたこと等を認定し、慰謝料請求を認めたもの(東京地判平18・4・28)
  • 約2年間同棲し、その後婚約をして結婚の準備(披露宴の予約等)をしていたことを認定し、慰謝料請求を認めたもの(東京地判平18・2・14)
  • 多くの友人に結婚相手として紹介していたことや約1年半にわたって同棲していたこと等を認定し、慰謝料請求を認めたもの(東京地判平16・6・24)
  • 約2年間交際していたこと、新居用不動産を購入しリフォームや家具の購入もしていたこと、互いの両親や友人に相手を婚約者として紹介していたこと等を認定し、慰謝料請求を認めたもの(神戸地判平14・10・22)

上述のとおり、婚約の成立においては、必ずしも婚約指輪の受け取り等の事情が必要となるわけではありません。本件において、相談者Xと男性Yとの間では結婚の約束をしていたとのことですから、婚約の成立が認められる可能性はあります。相談者Xと男性Yとの間とのやり取りの内容、親族、友人、勤務先等、周囲の者との間のやり取りの内容、特に、相談者Xは勤務先を退職しているため、退職の経緯等を十分に検討したうえで、婚約の成立について、主張立証することとなります。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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