交通事故による損害額の算定① 〜積極損害〜
交通事故における損害賠償は主に積極損害、消極損害、慰謝料の3つに分けることができます。
そのうち、積極損害とは、交通事故によって、被害者が実際に支払わなければならなくなった損害です。代表的な例として、怪我の治療費、それに伴う交通費、葬儀費用や介護費用などが挙げられます。
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治療費
治療費は、交通事故から発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲で、その実費全額が損害として認められます。
問題となる治療費
入院中の特別室使用料
入院中の特別室使用料について,医師の指示があった場合、症状が重篤であった場合や、空室がなかった場合等の特別の事情がある場合に限り、相当な期間につき損害として認められます。
過剰診療
治療行為として必要性、相当性が認められない場合は、過剰診療として損害が否定されることがあります。
高額診療
診療行為に対する報酬額が、社会一般の診療費水準に比して著しく高額な場合は、おおむね健康保険基準の1.5倍から2倍程度の額を損害として認める傾向にあります。
鍼灸、マッサージ費用等
鍼灸やマッサージの費用については、原則として同治療が医師の指示によるものであることが必要となります。
医師の指示がない場合でも、症状の回復に有効で、施術内容が合理的であり、かつ費用、期間等も相当といえる場合には、損害として認められる場合もあります。
症状固定後の治療費
症状固定(これ以上治療を続けても、改善が見込めないと判断される状態になったこと)後の治療費は、原則として認められていません。治療行為の必要性がないと考えられているからです。もっとも、これ以上症状の改善が見込めないと判断されたとしても、リハビリテーションが必要な場合など、症状の内容や程度に照らし、治療が必要かつ相当といえる場合には、症状固定後の治療費について、損害として認められることもあります。
注意点
交通事故の場合でも、健康保険証を呈示することにより、健康保険制度を利用することができます。なお、この場合には、自賠責の定型用紙による診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書を書いてもらえないことがあるので、事前に病院と相談してみましょう。
入院雑費
入院雑費とは、入院に伴い発生した治療費以外の日用雑貨購入費用などの様々な雑費のことです。
裁判実務では、この入院雑費は定額化されており、1日当たりの単価1500円に入院日数をかけて算出することが一般的です。
付添看護費
付添看護費とは、入院または通院のために付添人が必要となった場合に認められる費用のことをいいます。
医師の指示があった場合または症状の内容・程度、被害者の年齢等から付添看護の必要性が認められる場合は、被害者本人の損害として認められます。
職業付添人を付した場合は、必要かつ相当な実費を損害として認めます。
付添看護費の基準
近親者付添看護の場合は、1日当たり以下の金額を基準とします。
入院付添 | 通院付添 |
6000円 | 3000円 |
完全看護の態勢のある病院でも、症状の内容・程度や被害者の年齢により、近親者の付添看護費を認めることがあります。
近親者の付添看護費は、原則として、付添人に生じた交通費、雑費、その他付添看護に必要な諸経費を含むものとして認め、特別の事情がない限り、基準額に加えて、これらの費用を損害として認めません。
有職者が休業して付き添った場合、原則として、休業による損害と近親者の付添看護費の高いほうを認めます。
症状により自宅療養期間中の自宅付添費も認めることがありますが、近親者の自宅付添費は、近親者による入院・通院付添費を参考にして定められます。
将来の介護費
原則として、平均余命までの間、職業付添人の場合は必要かつ相当な実費を被害者本人の損害として認めます。また、近親者付添の場合は、常時介護を要するときは1日につき8000円を被害者本人の損害として認めます。随時介護を要するときは、介護の必要性の程度・内容に応じて相当な額を、被害者本人の損害として認められます。
身体的介護を要しない看視的付添を要する場合についても、障害の内容・程度、被害者本人の年齢、必要とされる看視の内容・程度等に応じて、相当な額を定めることがあります。
*随時介護:入浴、食事、更衣、排池外出等の一部の行動について介護を要する状態。
通院交通費
入通院の交通費は、実費相当額が認められます。ただし、タクシー利用の場合、傷害の内容・程度、交通の便等からみて相当性が認められないときは、電車、バス等の公共交通機関の運賃が損害額となります。
自家用車利用による交通費を請求する場合、ガソリン代(距離に応じて1km当たり15円程度が認められます。)のほか、必要に応じて高速道路料金、駐車場代が損害として認められます。
近親者の付添い又は見舞いのための交通費は、原則として認められません。しかし、近親者が遠隔地に居住し、その付添い又は見舞いが必要で社会通念上相当といえる場合は、近親者の交通費が損害として認められます。
葬儀関係費
葬儀関係費には、葬祭費、供養料のほか、弔問客に対する接待費、遺族自身の交通費、四十九日忌までの法要費等の費用が含まれます。原則として150万円まで認められ、これを下回る場合には実費が損害額とされています。しかし、150万円以上の葬儀関係費を認めた裁判例もあります。
注意点
死亡の事実があれば、葬儀の執行とこれに伴う基準額程度の出費は必要なものと認められるので、特段の立証を必要としません。
葬儀関係費は、原則として、墓碑建立費・仏壇費・仏具購入費・遺体処置費等の諸経費をも含むものとして考え、特別の事情がない限り、基準額に加えて、これらの費用を損害として認める扱いはされておりません。
遺体運送料を要した場合は、相当額が加算されます。
香典については、損害から差し引かれません。また、香典返し、弔問客接待費等は損害として認められません。
弁護士費用
弁護士費用については、その費用の全てが損害として認められるわけではありません。請求認容額の10%程度について、事故と相当因果関係のある損害として請求が認められています。
*相当因果関係
不法行為において因果関係が持つ意味は、因果関係を認めうる範囲で加害者に賠償責任を負わせる点にあります。ここで、いわゆる事実的因果関係(「あれなければ、これなし」の関係)を前提にすると、因果関係の範囲が広くなりすぎ、損害賠償の範囲が過大になりすぎることになります。したがって、不法行為法では、事実的因果関係が成立していることを前提にしつつ、損害を賠償させるべき範囲をより狭く限定しています。これを相当因果関係といいます。
その他
装具・器具
車椅子、義足、電動ベッド等の装具・器具の購入費は、症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で損害が認められています。また、一定期間で交換の必要があるものは、装具・器具が必要な期間の範囲内で、将来の費用も損害として認められています。
将来の装具・器具購入費は、取得価額相当額を基準に、使用開始時及び交換を必要とする時期に対応して中間利息が控除されます。
家屋改造費等
家屋改造費、自動車改造費、調度品購入費、転居費用、家賃差額等については、症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で損害が認められます。
その他
事故証明書等の文書料、成年後見開始の審判手続費用等について、必要かつ相当な範囲で損害が認められます。医師等への謝礼は、損害として認められません。
その他、交通事故と相当因果関係のある損害については認められます。
小西法律事務所