コラム

2021/10/14

親亡き後の子どものための民事信託(家族信託) ~活用事例ケース(障がいのあるお子様に兄弟がいるケース)~

 障がいのあるお子さまがおられるご家族において、そのお子様の将来の安定した生活を守るため、民事信託を活用することがあります。

 今回は「障がいのあるお子さまにご兄弟(別のお子さま)がおられる事例」をもとに、民事信託を利用した解決方法をご提示いたします。

ご相談の概要

 ご家族構成

父親 会社員(55歳)
母親 会社員(52歳)
長女 会社員(24歳)
次女 重度障がい者(19歳)

 次女は重度障がい者で自活が難しく、ご両親と同居中。長女は家を出て独立し、会社員として働いておられました。ご両親は「自分たちが亡くなった後、次女はどのように生活すればよいのだろう?」と悩み、ご相談に来られたのですが、これに対し、「民事信託」を使った解決方法を提案させていただきました。このケースでは、長女がお元気でお若かったので、将来的に受託者となってもらえれば解決できると考えられました。

民事信託(家族信託)のスキーム

 本件で具体的な民事信託のスキームは以下の通りに設定しました。

委託者 父親
受託者 母親→母亡きあとの後継受託者は長女
受益者 当初は父親、その後は次女
信託財産 父所有の不動産、預貯金

信託財産と委託者について

 委託される信託財産は、父親が所有していた不動産(現在ご両親と次女が居住)と生活費や医療費に使われるための預貯金です。

 委託者は財産所有者である父親となります。

受託者について

 受託者は、財産を預かって管理する人です。

 本件では、民事信託の設定時はまだ両親がお若くご自身たちで財産を管理できる状態でしたので、まずは母親が受託者となって財産を管理することとしました。

 しかし、いずれ母親は次女より早く亡くなると予想されます。そこで母親亡きあとの後継受託者として、長女を指定しました。

 このように長女を受託者とする場合、当然長女の承諾が必要です。本件では長女が成人していたので、信託契約の意味や受託者の義務内容などを説明し、了承を得て後継受託者を設定しました。

受益者について

 受益者は、信託財産から利益を受ける人です。

 本件で、信託契約設定時はまだ両親が健在であり、次女は両親と同居中でしたので、にわかに次女を受益者とする必要性の低い状況でした。

 そこで、まずは父親を受益者とし、母親が父親の財産を父親本人のために管理する内容としました。その上で、いずれ父親が死亡したときには受益者を次女に変更し、遺された次女のために財産が管理されるように民事信託を設定しました。

 このように民事信託を利用すると、ご両親が健在な間はご両親が主となって財産管理を行って受益できますし、ご両親の亡き後は長女が財産管理を行い次女が利益を得ることができます。

 ご両親がまだ若くて元気なときでも、子どもの将来のための民事信託を設定できるので、対応を検討するのに早すぎることはありません。

兄弟姉妹がいる場合には受託者を設定しやすい

 この事例の特徴は「障がいのあるお子さま(次女)に健常者の姉がいたこと」です。

 このように、障がいをお持ちの方に兄弟姉妹がいると、その方を将来の受託者に設定しやすいので、民事信託を利用しやすい状況といえます。

 本件でも長女の承諾を得て、母親の次の受託者となってもらうことができました。

兄弟姉妹が未成年の場合

 健常者の兄弟姉妹がいても、その方が未成年の場合には民事信託契約の設定が難しくなります。

 未成年者は一般的に判断能力に乏しいと考えられるため、行為無能力者とされており、自ら有効に信託契約ができないからです。

 障がいのあるお子さまのご兄弟に受託者となってもらう予定で民事信託を利用したい場合には、一般的には、受託者となる予定のご兄弟が成人してからの方がタイミングとして適切でしょう。

家族でよく話し合うことの重要性

 本件のように健常者の兄弟姉妹に受託者となってもらう場合、受託者となるご兄弟の理解と納得が不可欠です。

 ご両親としては「次女のために民事信託を利用したい」としても、ご長女が納得しなければ無理に受託者とすることはできません。

 民事信託を設定し、計画通りに稼働させるには事前に家族でよく話し合うことが必須となります。

 本件でもご両親とご長女を交えて話し合いの場を複数回にわたって設定し、民事信託によって発生する義務等について十分に理解していただいたうえで民事信託契約書を締結することとなりました。

まとめ

 障がい抱えたお子さまの将来の安定した生活を築くために、民事信託は非常に有効な手段です。ただしそのためには家族関係を把握した上で適切な信託設定をしなければなりません。

 当事務所では、それぞれの家庭ごとのご事情やご要望をお伺いし、どのような制度をどのように活用することにより問題を解決することができるのか、について随時相談に乗らせていただいております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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