コラム

2021/10/11

親亡き後の子どものための民事信託(家族信託) 〜活用事例ケース(お子様が一人のケース)〜

 障がいのあるお子さまがおられるご家族において、そのお子様の将来の安定した生活を守るため、民事信託を活用することがあります。

 その場合、特に障がいのあるお子さまがお1人でご兄弟がおられないケースにおいて、「誰を受託者」とするかが課題となることがあります。

 以前に当事務所で取り扱わせていただいた事例に基づいて、解決方法をご紹介させていただきます。

ご相談の概要

ご家族構成
父親(42歳)会社員
母親(40歳)専業主婦
ご長男(A君 12歳)重度の障がいをもったお子さま

 ご長男の障がいが重度だったため、ご両親は「自分たちが死亡した後、誰がこの子の面倒を見てくれるのだろう?」と心配しておられました。

 民事信託を利用するには、「受託者」を定めることが必要となります。

 受託者とは受益者のために委託者から預かった財産を適切に管理運用する役割の人をいいます。信頼できる人でないと大切な財産を預けられません。

 本件ではご両親が亡くなった後、どなたかA君のために財産を管理してくれる人がいないか、詳細に聞き取りを行わせていただきました。

 すると父親の妹であるBさん(A君のおば 38歳)がご一家の近所に住んでおり、A君の面倒をみてくれていることがわかりました。

 そこで、Bさんに受託者になっていただいたうえで民事信託を適用できないか、検討を進めました。

民事信託(家族信託)のスキーム

 検討を重ねた結果、Bさんを含めた関係者全員の合意を得て以下のような方法で民事信託のスキームを組むことに決まりました。

委託者 父親
受託者 Bさん(父親の妹、A君のおば)ただしおばの亡き後は別の人を選定する
受益者 当初は父→次に母→その次にA君(ご長男)
信託財産 父所有の自宅不動産、預貯金の一部

 委託者は現在の財産所有者であるA君の父親です。

 財産を預かって管理するのは父親の妹であるBさん(A君のおば)としました。

受益者について

 受益者とは、民事信託によって利益を受ける人です。

 本件で、民事信託の設定当初は委託者である父親ご本人とし、父親の死亡後は母親、母親の死亡後にはA君に受益権が移るように設定しました。

 このように設定することにより、父親の生前は父親のために財産を使ってもらってご両親がA君の面倒をみられますし、父親が死亡すると母親が受益者となってA君の面倒をみられることとなります。

 母親も死亡してA君が1人になったときにはA君本人のために財産管理してもらえるのでA君の生活が守られる仕組みです。

信託財産について

 信託財産とは、民事信託で「預ける財産」です。ご両親とA君が居住している家と預金の一部を信託財産としました。家を管理してもらうことによってA君の居住場所が守られますし、預金からは毎月の生活費や学費、医療費などを支出してもらえます。

Bさん死亡後の対応方法

 本件で問題となったのは、受託者であるBさん死亡後の対処方法です。

 Bさんは38歳であり、A君の母親(40歳)とあまり年が変わりません。A君よりも早く亡くなる可能性が高いでしょう。

 それゆえ、当初の受託者であるBさんが死亡した後の「次順位の受託者」を指定しておく必要があります。

 ご両親としては、Bさんの娘(15歳)か息子(13歳)に後継受託者になってもらいたいと考えていました。A君からみると「いとこ」にあたる親族です。

 しかし、いとこはお2人とも未成年であり信託制度の理解は困難と考えられ、現時点で次順位の受託者とするのは早急と判断しました。

 そこで、将来Bさんの娘や息子が成人してから本人らの意向も聞き入れて次順位の受託者となってもらう契約にするのが良いとアドバイスいたしました。

 結果として、A君が20歳になったときにA君のご両親とBさんが再協議を行い、その時点で最善と思われる次順位の受託者を指定する内容として民事信託を設定しました。

民事信託の条項例

 長男が満20歳に達した時から1年以内に父、母、父の妹は協議を行い、第2順位の後継受託者候補者を指定する。

 このようにフォローしておけば、Bさんが死亡した後の受託者を指定できるのでA君の生涯にわたって生活が守られることが期待されます。

子どもが1人しかいない場合の課題

 本件のように「障がいをもった子どもが1人」しかいない場合、受託者探しが困難となりがちです。A君のケースではたまたま近くに住んでいるおばがいましたが、そういった親族がいらっしゃらないケースもあるでしょう。

 お子さまがお1人の場合「委託者の甥(いとこ)」や「委託者の孫」などを受託者とする例もあります。信頼できる相手であれば必ずしも「親族」でなくてもかまいません。

受託者を監督する「信託監督人」

 受託者による独断的な行動を制限するためには、「信託監督人」を設定することが有効です。

 信託監督人とは、受託者が契約通りに適正に財産管理運用をしているかどうか、監督する人です。信託契約により、選任できます。

 弁護士を信託監督人に指定しておけば、きちんとお子さまのために財産が使われているか弁護士が監督できるので、ご両親の死後にも安心していただけるでしょう。

まとめ

 障がいを持ったお子さまの未来を守るために、民事信託は非常に有効な手段です。ただしそのためには家族関係を把握した上で適切な人を受託者として設定しなければなりません。当事務所では、それぞれの家庭ごとのご事情やご要望をお伺いし、どのような制度をどのように活用することにより問題を解決することができるのか、について随時相談に乗らせていただいております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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