コラム

2021/09/09

交通事故の民事責任① ~民法上の不法行為責任~

 交通事故により加害者が被害者に損害を与えると、加害者は、その損害を賠償する責任を負います。これを民事責任といいます。

 人身事故の場合、民事責任は民法や自動車損害賠償保障法に基づいて発生します。

 物損事故の場合、自動車損害賠償保障法の適用はありませんので、民法に基づいて責任が発生することになります。

死亡事故・傷害事故による損害 自動運転損害賠償保障法3条(運行供用者責任)
民法709条(不法行為責任)
物損事故による損害 民法709条(不法行為責任)

民法上の不法行為責任

 交通事故で相手に損害を負わせる行為は不法行為になります。被害者は、民法709条を根拠に損害賠償を請求できます。

不法行為責任

不法行為責任とは

 民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法709条)と規定しており、この責任を不法行為責任といいます。

 不法行為責任が認められるためには、①故意、過失による、②違法な行為が存在し、③損害が発生し、④その行為と損害との間に因果関係が存在することが必要です。また、条文には明記されておりませんが、⑤加害者に責任能力があることも要件の一つになります(民法712条、同法713条)。

 これらの要件の立証責任は、被害者側に求められています。

※因果関係:因果関係とは、行為と損害との間のかかわりを指し、この因果関係により損害の範囲が決まります。
※故意:一定の結果が発生することを意図し、又は少なくともそうした結果が発生することを認識ないし予見しながら行為をするという心理状態をいいます。
※過失:結果発生防止のために必要・十分な注意を尽くさなかった場合をいいます。注意義務の内容は、予見すべきであった被害を予見しなかったこと、あるいは回避すべきであった被害を回避しなかったこと場合を指します。
※法律上保護される利益:厳密な意味で「権利」とはいえなくても、「法律上保護されるだろう利益」であればよいとされています。

具体例

  1. Aさんが、車を運転中、わき見運転をし、歩行者Bさんをはねてしまった場合。
    →この場合、 不注意(過失)により、他人の身体(権利)に怪我(侵害)を負わせたといえます。交通事故の場合は、自動車の運転者に求められる水準に照らした最善の注意義務が要求されます。
  2. 免許を取ったばかりのAさんが、一般道路において法定速度を超過し、突然歩行者が飛び出してきた場合に対処することができないことを認識し、それでもいいと思いながら、横断歩道上のBさんをはねた場合。
    →この場合、故意により他人の身体を侵害したといえます。
  3. Aさんが、車を運転中、Bさんを轢き怪我を負わせた。Bさんの怪我の状態は軽微であったが、救急車に乗った後、救急車が事故に合い、Bさんが死亡した場合。
    →この場合、Aさんの加害行為とBさんの死亡の間に因果関係が認められないため、AさんはBさんの死亡については責任を負いません。

責任無能力者等の監督者の責任(民法714条)

責任無能力者等の監督者の責任とは

 責任無能力者が加害行為をした場合、その責任無能力者の監督義務者及び代理監督者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。ただし、監督義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りではありません(民法714条1項、2項)。

 この責任は、監督義務者の義務違反に基づくもので、監督者の責任を認めることで被害者の救済を図ることを目的としています。

 これら故意・過失や因果関係の立証責任は、被害者側に求められています。

未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為によって賠償の責任を負わない。

民法712条

 この責任能力の有無は、年齢のほか、その不法行為の性質、態様等によって判断されます。年齢については、12歳、13歳頃から責任能力があると判断されることが多いです。

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

民法713条

1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

民法714条

具体例

①10歳の少年Aが自転車で無謀な運転をして、通行人Bとぶつかり怪我をさせた場合。
 →この場合、Aの両親(監督義務者)は、Bに対して、損害賠償の責任を負います。

使用者責任(民法715条)

使用者責任とは

 使用者責任とは、事業をしている者が、その被用者(労働契約に基づき、使用者から賃金を受け取って労働に従事する者)が仕事中に第三者に対して加えた損害を賠償する責任をいいます。

 この責任の趣旨は、使用者は被用者の活動によりその事業範囲を拡大し、利益をあげているのであるから、それによる損失をも負担すべきであるという報酬責任の原理や、被用者を用いて事業を拡大することにより、個人で事業を営む場合よりも社会的な危険を増大させているのであるから、その危険が実現したならばその損失を負担すべきであるという危険責任の原理に基づきます。

1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

民法715条

具体例

①タクシーの運転手が不注意で電柱に激突し、乗客に怪我を負わせた場合。
 →この場合、タクシー会社は乗客に対し使用者責任を負います。

共同不法行為

 民法719条1項は、「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各白が連帯してその損害を賠償する責任を負う共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。」と規定しています。これを、「共同不法行為」といいます。

 加害者が複数存在すると考えられる場合においては、被害者側が、民法719条1項の規定に基づく「共同不法行為」を主張して、各加害者に対し、損害賠償請求をすることができます。

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