【相談事例】浮気相手が複数人いる場合の慰謝料請求について
相談の概要
相談者Xは、最近、夫Aの帰りが遅かったため、夫Aの浮気を疑っていたのですが、夫Aの携帯電話のLINEのやり取りから、夫Aが複数の女性(Y、Z)と肉体関係を持っていることが発覚しました。
相談者Xは、夫Aとは離婚するつもりですが、不貞相手Y、不貞相手Zに対して、それぞれ慰謝料請求をしたいと考えています。
そこで、相談者Xは、夫の浮気相手が複数人いる場合に、全員に対して慰謝料を請求することができるのか、その際に注意点はあるか等を相談するため、弊所にお越しになられました。
弁護士の回答
配偶者が複数人の相手と不貞行為をしていた場合には、原則、不貞相手の女性全員に対して慰謝料を請求することができると考えられます。
ただし、それぞれの不貞相手との間で、不法行為の要件を満たす必要がありますので、不貞相手の女性の中に、故意過失がないなどの要件を満たさない者がいた場合は、その女性に対しては、慰謝料請求が認められない、との結論になります。
また、不貞相手の女性から、夫Aには自分の他にも不貞相手がいたのだから、相談者Xと夫Aの婚姻関係の破綻は自分のみの責任ではないため、慰謝料は減額されるべきである、との主張がなされることが考えられます。
この点、他の不貞相手の存在が、慰謝料の減額要素となるか否かは、判断がわかれています。
東京地判平成15年11月6日
Xと配偶者Y1との婚姻中に、配偶者Y1が不貞相手Y2及び不貞相手Y3と不貞行為をした事案で、Xが配偶者Y1、不貞相手Y2及び不貞相手Y3を被告として慰謝料請求した事例です。
裁判所は、「被告Y3の行為は、本件婚姻関係の破壊をもたらした被告Y1の行為を、原告に対する一連の不法行為と見るとき(被告Y2と被告と被告Y3との間には当然ながら意思の連絡はないし、原告の主観面にも明白となったのは被告Y1と被告Y2の不貞行為発覚後であるが)、客観的にはその一部といえるから、被告Y1を介して、被告Y2の行為とも共同不法行為の関係にあるものということができる。」として、Y2とY3との関係は、Y1を介して共同不法行為の関係にある旨判断しています。
上記の判断内容からすると、他の不貞相手の存在は、慰謝料の減額要素とならないとも考えられますが、本事例においては、「Y3の行為が・・・それ単独で本件婚姻関係を破壊したとまでは認められないこと(原告もそのような主張をしていない。)、被告Y3がその非を認め、原告に対し謝罪の意思を明らかにしていることなど本件に現れた事情を総合考慮し、その帰責割合を定めれば、被告Y3は、慰謝料については10万円の範囲で,他の被告らと不真正連帯債務を負うべきものと認められる。」と判断しており、Y2の存在を考慮してY3の慰謝料額を減額しているようにも考えられます。
東京地判平成22年7月6日
YがXの夫Aと不貞に及び、その結果Xと夫Aの婚姻が破綻するに至ったなどとして、XがYに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求し、Yが、夫Aが他の女性とも不貞行為に及んでいたことを慰謝料の減額事由として主張した事案です。
裁判所は、「被告は、Aが他の女性とも不貞に及んでいたことを主張するが、そのことを前提としても、他の不貞相手(及びA自身)に対する原告の損害賠償請求権は、被告に対する本訴請求に係る損害賠償請求権と不真正連帯債務の関係にあるから、原告との関係で被告の責任を何ら減少させるものではなく、被告の主張を採用することはできない。」として、他の不貞相手の存在が慰謝料の減額要素とならない旨判断しました。
東京地判平成25年4月17日
Xが、Yに対し、Xの夫Aと不貞行為を行ったことにより、多大な精神的苦痛を被ったなどとして、慰謝料の支払を求めた事案です。なお、夫Aは、Y以外の女性とも複数不倫をもっていた事情がありました。
裁判所は、慰謝料額の判断において、「Aは、数年の間に、被告との関係を含め、複数回、女性と不倫関係になっていること(当事者間に争いがない)や弁論の全趣旨を総合すれば、Aが上記のような気持ちを一定程度は有していたこと自体は信用することができ、上記イのような状況(※AがXとの婚姻関係を修復させようとする意思を有していない状況)に至った原因の一定程度については、被告との不貞関係以外の事情もあると認めることが相当である」と判示しており、他の不貞相手の存在について、慰謝料の減額事由として考慮していると考えられます。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
この弁護士について詳しく見る