コラム

2021/08/16

新しい相続税対策 ~民事信託(家族信託)~

 今、「民事信託」という将来の認知症、相続、資産運用等に備えることができる制度が注目されています。

 民事信託の活用事例をシリーズで紹介します。

ケース

 Aさん(78歳)には、妻Bさん(76)、長男Cさん(50)、二男Dさん(48)、長女Eさん(44)という家族がいます。また、Aさんは、自宅不動産の他に、空き地(路線価1億円)として利用している土地と現預金1億円の資産があります。

 Aさんは、相続税対策として、青空駐車場として利用している土地を有効活用できないかと検討しています。もっとも、最近物忘れがひどくなってきており、将来にわたって相続税対策を行うことができるのか不安を感じています。

不動産の有効活用による相続税対策

 相続税対策として、収益物件(賃貸アパート)を建築すると良い、ということを耳にすることがありますが、これはどういうことでしょうか。

 相続税は、本人の遺産に税率を掛け合わせて計算します。ですので、遺産の評価を下げることが出来れば相続税は安くなります。

 現預金1億円、空き地(路線価1億円)をそのままの状態で相続した場合の遺産の評価は2億円です。

 これを、現預金1億円を利用して、空き地に収益物件を建築した場合、以下のように遺産の評価額を下げることができます。

【例】
 東京都北区に土地(更地の場合の相続税評価額1億円)に、一棟の賃貸マンションが建っており、相続税発生時点で、10部屋中10部屋が全て満室だった場合。

1億円-(1億円×70%×30%×100%)=7,900万円

※1 地域によって異なりますが、都心の方が高い傾向にあります(30~90%)。
※2 全国一律30%となっています。
※3 例えば、10室のアパートで5室を賃貸している場合は50%となります。
   仮に、全て空室の場合は、土地評価減はありません。

土地の上に“第三者に貸している物件”があると、その土地の相続税評価は約2割下がる。

※7,900万円÷1億円=約80%⇒2割の評価減

 (※2021年8月2日時点)

 このように、Aさんが相続対策を何も行わなかった場合、遺産の評価は2億円となりますが、Aさんが、現預金で土地に賃貸マンションを建てた場合、遺産の評価は1億2100万円となり、大きな節税効果が得られるのです。

現状の問題点(認知症対策などを行わないリスク)

 以上のように、空き地を活用して収益不動産を建築することは相続税対策になります。

 収益不動産を建築する場合、全額を自己資金で賄うのではなく、ローンを組む方も多いでしょう。このような場合、銀行からの融資交渉や建築会社との間の契約交渉等を行わなければならず、時間が掛かってしまうことが一般的です。

 この間、Aさんが認知症になってしまった場合、銀行との間の融資契約や、建築会社との間の建築請負契約が締結できなくなってしまいます。

 その結果、空き地を有効活用することが出来なくなり、計画が頓挫してしまう可能性があります。

 そこで、本人が認知症等になった後も、本人の意向を反映して相続税対策を行うたの手段として、民事信託(信託契約)が注目を集めています。

民事信託(家族信託)とは

 民事信託とは、資産を持っている人(委託者)が、信頼できる相手(受託者)に対し、資産を移転し、その受託者が特定の人(受益者)の為に、その資産(信託財産)を管理・処分することをいいます。

信頼できる人に財産を託します

 上の図では、Aさんを委託者、預貯金の一部(5000万円)と空き地を信託財産、受託者をCさん、第一次受益者をAさん、第二次受益者をBさん、Cさん、Dさん、Eさんとしています。

 なお、この信託契約も法律行為ですので、Aさんが認知症等により、判断能力がなくなってしまう前に契約を締結しておく必要があります。

判断能力を欠くに至った場合も土地の有効活用が可能です

 民事信託契約締結後、Cさんが受託者として銀行からローンの借り入れを行い、また、不動産建築会社と建築請負契約を締結します。

 このようにCさんが契約の主体になるので、万一、Aさんが認知症になり、判断能力を欠くに至った場合でも、建築計画は何らの支障なく進めることができます。

 Aさんが存命の間は、当該収益物件から得られる賃料収入はAさんに帰属します。

 Aさんが亡くなった後は、第二次受益者が賃料を得ることができます。本件では、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんを第二次受益者としています。第二次受益者が複数名いる場合、その割合も自由に設定することが可能です。例えば、妻であるBさんや、受託者として信託業務を行ってくれているCさんに対する受益権割合を他の者よりも多くすることが考えられます。

 このように、民事信託は、認知症対策を行うことができるばかりでなく、死後の財産の承継という遺言と同様の効果も兼ねることができます。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

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