コラム

2021/08/19

親亡き後の子どものための民事信託(家族信託) ~遺言・任意後見・成年後見との違いや関係は?~

 当事務所では、障がいをお持ちのお子さまのおられる親御様から、将来のお子さまの生活を守るためにどうすればよいかというご相談を受けた際、親亡き後に備えて「民事信託」を活用するようお勧めすることがよくあります。

 お子さまの将来を守るための制度としては「遺言」や「後見制度(任意後見、法定後見)」もありますが、これらと民事信託にはどのような違いがあるのでしょうか。

 今回のコラムでは、親なき後の子どものための民事信託と遺言、任意後見、成年後見との違いや関係性について解説いたします。

民事信託、遺言、任意後見、法定後見の違い

  民事信託 遺言 任意後見 法定後見
選任方法 契約 遺言者による単独行為 契約 裁判所による選任
柔軟性 高い 高い 高い 低い
継続的な財産管理 可能 不可能 可能 可能
家庭裁判所の監督 なし なし あり あり
スタートする時期 いつでも良い 死亡時 本人に判断能力が
なくなったとき
本人に判断能力が
なくなった後
利用のハードル 信頼できる家族が必要 要式行為なので
無効になりやすい
本人に判断能力が無い場合、
本人自らが契約できない
硬直的な対応しかできない、
裁判所への報告が必要
取消権 なし なし なし あり
財産管理方法の指定 できる できない できる できない

財産管理者の選任方法

 民事信託の場合には、委託者と受託者が信託契約を締結することによって財産管理を開始します。

 遺言の場合、遺言者が有効な「遺言書」を作成すると死亡時に当然相続されるので、子ども本人が直接財産を受け継ぎます。財産管理者はいません。

 任意後見の場合、本人に判断能力があるうちに後見人となる予定の人と「任意後見契約」を締結しなければなりません。子どもに十分な判断能力がなかったら、そもそも子ども自らが任意後見契約を締結することはできません。

 成年後見の場合、本人に判断能力がないと認められるときに裁判所へ申し立てをして後見人を選任してもらう必要があります。

手続きの柔軟性

 民事信託は家庭裁判所による監督を受けないので、状況に応じて柔軟な対応が可能です。

 遺言の場合、無効にならない限り遺言者が自由に内容を決められます。

 任意後見の場合、財産の管理方法について任意後見契約によって定めることが可能であるため、柔軟な対応が可能となります。

 成年後見の場合、家庭裁判所の監督を受けるので柔軟性は低くなります。

継続的な財産管理

 民事信託の場合、受託者が毎月数万円ずつ生活費を支出するなど定期的、継続的な対応が可能です。

 任意後見や成年後見の場合も同じです。

 遺言の場合には遺産を一括で受け渡すことになるため、生活費の継続的な定期払いなどはできません。

財産管理がスタートする時期

 民事信託は、委託者と受託者の契約によって開始します。委託者の生前には親自身のために、死後には子どものために財産管理してもらったら、生前から死後にわたって継続的に財産管理をしてもらえます。

 遺言の場合には親の死後にしか効力が発生しません。

 親が任意後見人をつける場合には親が生きている間のみ(判断能力を失った子ども自身は任意後見契約できないため)、成年後見は家庭裁判所で成年後見人選任の審判があったときに開始します。

デメリットや限界

 民事信託、遺言、後見それぞれにおいてデメリットや制度の限界があります。

 民事信託を利用するには、信頼して財産を預けられる第三者の存在が必須です。障がいのある子どもにご兄弟がおらず、その他の親族にも財産を預けられない場合には利用できない可能性が高くなります。

 遺言は「無効になりやすい」点がデメリットとして挙げられます。特に遺言者が自筆で作成して自分で保管する場合の「自筆証書遺言」は要式を満たさず無効になるケースが少なくありません。

 任意後見契約は、本人に判断能力のある場合にしか締結できません。障がいのある子ども本人が自ら任意後見契約を締結するのは困難です。ただし、子どもの両親が子どもの親権者として、子どもに代わって任意後見契約を締結することは可能です。

 成年後見人は、家庭裁判所へ定期的に状況報告しなければならないので、後見人に負担がかかるという点がデメリットとして挙げられます。弁護士や司法書士を選任すれば家族に負担はかかりませんが、通常、費用が発生してしまいます。

取消権の有無、本人の保護

 民事信託における受託者には「取消権」がありません。ご本人が自分にとって不利になる契約をしてしまったときなど、代わりに取消権を行使してご本人を保護する効果がありません。

 遺言や任意後見でも取消権は認められません。

 成年後見人は取消権を行使できるので、いざというときに本人の利益を守りやすいメリットがあります。

財産管理方法の指定

 民事信託を利用すると、財産管理方法を細かく指定できます。どの財産を預けるかも選定できますし、「毎月定額を子どものために使う」、「施設や病院への費用を払う」、「居住用不動産を管理する」など個別的な設定が可能です。

 遺言の場合、相続させる財産は指定できますが、その財産の利用方法、活用方法は指定できません。

 成年後見の場合にも成年後見人の判断や裁判所の監督のもとに財産管理するため、個別具体的な財産管理方法の指定は不可能です。

遺言、民事信託、後見制度の関係

 遺言、民事信託、後見にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どれか1つの制度を活用することによって、すべての問題を解決できるわけではありません。適切な方法で組み合わせることにより、今の課題を上手に解決する必要があります。

 当事務所では、それぞれの家庭ごとのご事情やご要望をお伺いし、どのような制度をどのように活用することにより問題を解決することができるのか、について随時相談に乗らせていただいております。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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