コラム

2021/08/05

民事信託 ~親亡き後の子どものために民事信託(家族信託)を活用するメリット~

親亡き後、障がいのあるお子さまのために「民事信託(家族信託)」を活用するメリット

 親はほとんどのケースにおいて、お子さまより早く命を終えます。

 障がいのあるお子さまがいらっしゃる親御様は、ご自身がお亡くなりになった後のお子さまの生活がご心配のことと思います。

 子どものために遺産を遺しても、子ども本人に適切な管理能力がなければ計画的にお金が使われないこととなります。

 そんなときにはぜひ「民事信託」の活用をご検討いただけたらと思います。信頼できる家族に財産を託し、障がいのあるお子さまのために適切に管理をしてもらえます。

 今回は「親なき後」の障がいをお持ちのお子さまのための福祉的な民事信託の活用方法をご紹介しますので、将来のお子さまの生活が心配な親御様はぜひ参考にしてみてください。

親なき後問題を解決する「福祉型信託」とは

 ハンディキャップがあり自活が難しい状態のお子さまがいる場合、民事信託の活用を検討できたらと思います。    

 民事信託は、家族などの信頼できる人に財産を預け、あらかじめ取り決めた方法によって管理運用処分してもらうための制度です。

 たとえば不動産や預金を預けて自分のために管理してもらったり、子どものために使ってもらったりできます。

 民事信託には以下の3者が登場します。
  ①委託者…財産を預ける人
  ②受託者…財産を預かって管理運用する人
  ③受益者…財産管理から利益を得る人

 親が子どものために民事信託を利用する場合、親が委託者となって親または子どもが受益者となります。信頼できる家族や親戚に受託者となってもらい、財産を管理してもらう仕組みです。

 障がいをもったお子さまのために活用する民事信託を「福祉型信託」ともいいます。

親亡き後「福祉型信託」を利用するメリット

 障がいのある子どものために福祉型の民事信託を利用するとどういったメリットがあるのか見てみましょう。

子どもに財産管理能力がなくても生活が守られる

 重度障がいがあるお子さまは、親が死亡した後に1人で財産を管理していくのが困難でしょう。

 親が多くの遺産を残しても、本人が適切な方法で管理運用できなければ役に立ちません。誰かにだまし取られる可能性もありますし、まとめて使ってしまって後に残らない可能性も考えられます。

 民事信託を活用して障がいを持ったお子さまのご兄弟などにお金や家を管理してもらえたら、子どものために財産が適切に利用されます。

 障がいのあるお子さまの生活が守られるのが何よりのメリットとなるでしょう。

継続的な生活維持が可能となる

 障がいのあるお子さまに財産を残す方法としては「遺言」もあります。確かに遺言をすると、家や預金などの資産をお子さまに引き継がせられるでしょう。

 ただ遺言では、財産が「一括」で受け渡され、「毎月10万円ずつ」などの定額払いはできません。本人が一気に財産を使ってしまったらすぐになくなってしまいます。

 また遺言で受け継がれた財産は、本人が管理しなければなりません。そもそもご本人に有効に財産管理活用する能力がなかったら、遺産を遺しても解決にならないのです。

 民事信託であれば、判断能力を持つ家族が子どものために信託口座から少しずつ生活費を支出することも可能なので安心できます。

成年後見人が不要

 重度な障がいがあって自分で財産管理するのが難しい方には成年後見人が必要です。

 成年後見人をつけると、成年後見人が本人名義のすべての財産を預かって本人のために管理します。月々の生活費の支払いなども任せられるので、お子さまの生活も維持されるでしょう。

 しかし成年後見人をつけると、家庭裁判所の監督下に置かれるので柔軟な対応が困難となります。居住している家の売却なども自由にできませんし、後見人となれば家庭裁判所へ定期的に状況報告をしなければなりません。親族が成年後見人になると、一生業務を継続しなければならず負担になるでしょう。

 かといって弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人になった場合には、毎月2~5万円程度の費用がかかってしまうのが通常です。

 民事信託であれば柔軟な対応が可能ですし、受託者となった親族にかかる負担も小さくなります。

子どもが死亡した後の財産帰属先も指定できる

 民事信託を利用すると、受益者が死亡した後の財産帰属先も指定できます。

 たとえば受益者を障がいのあるお子さまとし、孫を受託者とした事案を考えてみましょう。

 お子さまが死亡した後は、これまで財産を管理してきたお孫さんに財産を引き継がせる内容にしておけば、3世代にわたるスムーズな遺産の受け渡しが可能となります。

 福祉型の民事信託を活用すると、遺言や成年後見など他の制度だけではクリアできない問題を解決できます。障がいのあるお子さまがおられるご家庭では大変有効な方法となるでしょう。

 障がいのあるお子さまがおられる親御さまは、ぜひとも民事信託の活用をご検討いただけたらと思います。

弁護士 小西 憲太郎

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人財産管理アシストセンター 代表理事

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