物損事故で認められる損害賠償の範囲
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物損事故で認められる損害賠償の範囲
物損事故とは、人の死傷が無く器物の損壊のみの事故のことです。
このような事故の場合、事故態様に応じて、次の項目の損害賠償が認められる可能性があります。
修理費
被害車両の修理が可能な場合には、修理費相当額が損害として認められます。ただ、この修理が可能というのは、物理的に修理が可能というだけではなく、経済的にも修理が可能であること(修理費が事故前の車両の時価相当額を下回ること)が必要です。
経済的全損
車両が修理不能(修理が著しく困難で買替えを相当とする場合も含みます。)又は修理費が事故時の時価額を上回る場合は、原則として全損と評価し、事故時の時価額を損害とします。時価は、原則として、同一車種、年式、型、使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場で取得しうる価格ですが、その認定に当たっては、オートガイド自動車価格月報等を参考資料とする場合が多いです。
買換え差額
修理ができない場合には、車両を買い換えることになります。この場合、事故当時の車両の時価と、事故後の車両の売却代金との差額が損害になります。なお、事故後の車両の売却代金とは、スクラップとしての売却代金です。
最判昭49・4・15も、「修理不能かまたは車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じ、その買換えが社会通念上相当と認められるときは、事故当時の価格と売却代金の差額を請求できる。また、中古車の時価は、原則としてそれと同一の車種・年代・型・同程度の使用状態・走行距離などの自動車を中古車市場で取得し得る価格による」と判示しています。
車両を取得するたびに必要となる費用(検査・登録費用、および車庫証明費用、登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用および納車費用)は、買い換えに付随するものとして損害と認められます。
評価損
評価損とは、事故前の車両価格と修理後の車両価格の差額をいいます。
評価損には概念的には2種類あるとされており、技術上の評価損(技術上の限界から修理によっても回復できない欠陥が残存する場合)、および取引上の評価損(事故歴があるという理由で市場価値の低下する場合)があります。
後者の場合を狭義の評価損という場合もありますが、これだけで損害賠償を認められるかどうかは裁判例でも見解は分かれています。
技術上の評価損については損害と認められることに争いはありませんが、その金銭的評価について多くの裁判例で用いられているのが,修理費を基準に評価損を算定する方法です。この方法では、評価損は修理費の○○%相当額として認定されます。また、修理費だけでなく、事故車両の車種・年式・グレード・走行距離・損傷箇所を総合考慮して金額を算定する方法もあります。裁判例では修理費の20〜30%程度とする例が多数を占めますが、これ以上の評価損を認めた裁判例も複数あります。
代車費用
事故によって損傷した自動車の修理・買換えが必要になり、自動車が使用できなくなった期間について現に代車が必要であり、かつ代車を使用したときは相当な範囲に限りレンタカー料金などの代車使用料が損害賠償として認められます。
代車の必要性については、業務用車両の場合は一般的に肯定されますが、自家用車の場合は代車使用の頻度が極端に少なく、代車を借りなくても、他の公共交通機関を利用することにより格別の不具合が生じない場合には、損害拡大防止の観点から被害者としても公共交通機関を利用すべきですから、代車を使用しても必要性は認められません。なお、代車の必要性があっても代車を使用しないで代替交通機関を利用した場合にはその交通費を請求できるとされています。
代車の相当性については、代車の使用期間や、代車が高級車であった場合に問題となることが多いです。事故によって損傷した自動車が外国製の高級車であっても、その代車として同じグレードの外国製高級車を使用することは、特別な事情がない限り相当性がないとされ、裁判例では少しグレードの低い国産の高級車を代車とする費用を損害とすべきであると判断されています。代車使用期間については、修理期間または買い換えに要する期間を相当とするのが一般的です。
休車損
事故によって損傷して使用不能となった自動車が営業車として使用されていた場合(タクシー・バス・トラック等)、その自動車の修理期間または買替に必要な期間については営業に使用出来ず営業利益が減少することになりますので、その減少した利益は損害として認められます。
休車損害は、その自動車の1日あたりの営業収入から、運行しないことによって支出を免れた経費を差し引き、これに休車期間を乗じて算定します。経費として控除されるものとしては燃料代や有料道路代金等があります。駐車場代や保険料などの固定費は控除されません。
もっとも、被害車両の代わりに代車を使用していた場合には、代車使用料が損害として認められますので、これに加えて休車損害を請求することはできません。また、保有する他の遊休車両を使用し、稼動状況を維持できていた場合などでは損害が減額される場合もあります。
その他
雑費
車両保管料、レッカー代、廃車料等について、相当の範囲で損害と認められます。
建物の損傷
事故によって建物あるいは塀等が事故により破損した場合には、その修理費が損害として認められます。全壊した場合では、その使用年数に応じて減価償却をするなどして当該建物の価値を算出し、その価値が損害額と認められます。建物内の家財が損傷した場合にも、その修理費あるいは(修理ができない場合には)その時価相当額が損害額と認められます。また、建物を修理する間の仮住まいをしなければならない場合、その家賃についても相当な範囲であれば損害として認められます。
建物の損傷について居住者に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は一般的には認められません。しかし、裁判例では車が突入してきたことで在宅者が生命の危険にさらされた場合や、高齢者が長年住み慣れた住まいを離れなければならなくなった場合などでは30万円程度の慰謝料を認めた例もあります。
被害車両の積載物の破損
カーナビなどの装備品や積荷が破損した場合、その積載物の交換価値が損害として認められます。積荷と同種同等の物の市場価格がある場合にはその市場価格が損害額とされることもあります。
また、事故によって積荷を移動しなければならなくなった場合、積荷詰替費用、積荷荷降ろし費等も認められます。
営業損害
事故により店舗等が被害を受け、その修理のために休業せざるを得なくなった場合、実際に休業した期間あるいは、修理に必要な相当の期間における損害が営業損害として認められます。
営業損害の算定方法は、裁判例においてはその前年の営業利益や事故前3ヶ月の平均利益を基礎として、休業した期間に得られるはずだった営業利益を算出する方法が一般的です。また、営業再開にあたって必要となった広告料や宣伝費を認める裁判例もあります。
ペットの損害
車に乗せていたペットが事故により負傷した場合、物の損傷と同様にその治療費も損害として認められます。ペットが死亡した場合には、その交換価値や葬儀費用を損害として認めた裁判例もあります。
慰謝料
物的損害に関する慰謝料は、原則として認められません。物損について本人が精神的損害を被ったとしても、その精神的損害は、財産的損害のてん補を受けることによって回復されると考えられているからです。
弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
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