【解決事例】オレオレ詐欺の受け子の少年事件
事案の概要
少年は、ミナミの繁華街で見知らぬ同世代の少年から「日当5万円のバイトあるけどやる?」と声を掛けられました。少年は、割の良い仕事だと思いバイトを行うことにしました。なお、バイトの内容は後日詳しく話をするとのことでした。
後日、少年に非通知で電話があり、バイトについて、〇月〇日〇時に〇駅に、スーツを着用の上、鞄、メモ帳、ボールペンを持って出向くように、との指示がありました。
少年は、指示に従い、指定された場所に行きました。すると、非通知で電話があり、「メモ帳を用意して、今から言う住所をメモして、グーグルマップアプリを参考に、その住所まで行って。基本的には電話で指示をするから、電話は繋ぎっぱなしにしておいて。」との指示がありました。
少年は、指示に従い、電話を繋いだまま指定された家まで向かいました。少年は、電話口の者に対し、家に着いた旨報告しました。すると、電話口の者は、「今から話す通りに、相手に話をして。」と言いました。
少年は、言われるがまま、家のインターホンを鳴らし、出てきた老人(被害者)に対し、言われた通り自己紹介を行いました。その後、電話口の者から、「相手の人に電話を代わって。」と言われたため、少年は、自身の携帯電話を被害者に手渡しました。
電話口の者と被害者は、少年の携帯電話を用いて数分間会話していました。少年は、その間、どのような会話が交わされていたのか把握しておりません。その後、少年は、被害者から携帯電話を返してもらったところ、電話口の者から、「相手から渡される荷物を受け取って。」と言われたため、言われるがまま、被害者から紙袋を受け取りました。
そして、少年は、被害者の家を後にしましたが、電話口の者から「〇駅にタクシーで向かって、そこのトイレの個室に入っておいて。ドアを〇回ノックするから、そこで受け取った荷物を、ドアを開けずにドアの上から渡して。」と指示を受けたため、タクシーに乗って指定された駅のトイレに行きました。
少年は、駅のトイレに入り、待機していましたが、指定された回数ドアをノックする者が現れたため、被害者から預かった紙袋を、トイレのドアを開けることなく、ドアの上の隙間部分から、ドアをノックする者に対して交付しました。また、少年は、紙袋と引き換えに封筒に入った5万円を受け取りました。
この出来事の数か月後、少年は、オレオレ詐欺の受け子を行ったとして、詐欺事件で逮捕されました。
少年は、当時18歳であり、自身の行った行為がオレオレ詐欺の受け子の役割であったと認識していなかったと主張しておりました(もっとも、少年は、被害者から紙袋を受け取った後のやり取りについては若干の不自然さを感じておりました。)。
手続きの流れ
少年鑑別所での生活
少年は、逮捕勾留の末、少年鑑別所に送致されました。
少年鑑別所において、少年は、勉強、読書、教養ビデオの視聴、軽い運動、教官との面接等をして日々生活します。時間帯によってはテレビも見れますし、お菓子を食べることもできます。
もっとも、少年鑑別所での生活態様は、後の審判に影響を与えます。
調査官の調査
少年事件における審判は大きく分けると、①不処分、②保護観察、③少年院送致、④検察官送致となります。そして、この審判は、裁判官が下すことになりますが、その判断のための参考資料として、家庭裁判所調査官が調査報告書を作成します。
家庭裁判所調査官は、少年や家族と複数回面談した上で、どのような処分を下すことが少年にとって望ましいか調査報告書に書き記します。
本件では、オレオレ詐欺という罪の重さから、少年院送致が相当であるとの意見が出ておりました。
審判
少年は、元々、お年寄りが好きであり、地域の集会やボランティアにも参加していました。そのため、少年は、結果として自身がオレオレ詐欺に加担しており、お年寄りに多大な迷惑をかけたことを知り、非常にショックを受けておりました。
また、被害者に対し、謝罪文を交付し、分割で被害額を弁償していく内容の示談を行いました。
さらに、少年の保護者も少年の更生に協力的であったこと、新たな仕事も見つかっていたこと、少年が真摯に反省していること等の諸般の事情を考慮して、保護観察処分という審判が出されました。
コメント
本件は、近年増加しているオレオレ詐欺の少年事件です。「事案の概要」でも詳しく記載したように、近年、オレオレ詐欺は、計画を立てる者、電話する者、現金を受け取る者(受け子)、当日指示する者等に役割分担がなされております。そして、社会経験の乏しい少年が、もっとも逮捕される可能性が高い、受け子を担うケースが増えているのです。
少年の中には、自身の行いが詐欺行為の加担であると認識している者もおりますが、本件のように、単に割の良いアルバイトとしか認識していない者もいます。大人目線であれば、詐欺行為であると気づくことができる点も多いのでしょうが、成長過程の少年からすると、詐欺行為であることに気がつかないということも不自然ではありません。
弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
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