コラム

2025/04/21

共有物分割請求訴訟による共有不動産の分割方法について~代償分割 (価格賠償)~

 共有物の分割について、共有者の間での協議では話がまとまらない場合、共有者全員を訴訟の当事者として、共有物分割請求訴訟を提起する必要があります。

 共有物分割請求訴訟が提起されると、裁判所が、現物分割、代償分割(価格賠償)、換価分割の中のいずれかを選択して共有物の分割を命じます。

 本コラムでは、代償分割(価格賠償)について解説いたします。

代償分割(価格賠償)とは

 代償分割(価格賠償)とは、共有者のうちの1名または複数名が不動産を取得し、その他の共有者には取得者が共有持分に相当する代償金を支払うことで分割を行う方法です。

 代償分割(価格賠償)の考えは、最判平成8年10月31日判決によって認められておりましたが、その後、令和3年の民法改正によって条文に組み入れられました。

裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

民法258条2項

代償分割(価格賠償)のメリット

 この方法は、取得者が不動産を引き続き使用したい場合や、他の共有者が現金化を希望する場合に適した手段となります。

 自分が居住している共有不動産にそのまま住み続けたいなど、共有不動産を売却せずに残したい意思を持っている共有者の想いを汲むことができます。

 また、代償分割(価格賠償)は、共有者ごとの経済的な不公平感が出にくい分割方法になります。

 現物分割と比較すると、物理的な分割を回避することによって、不動産の効用や用途の幅を損なわずに済むメリットもあります。

代償分割(価格賠償)のデメリット

 共有不動産を取得する共有者が代償金を支払うだけの資力を有している必要があります。

 また、代償分割(価格賠償)で争いとなるのは不動産の評価額の部分です。話合いでまとまらない場合は、不動産評価を行うために不動産鑑定士に依頼する必要があり、時間と費用がかかります。

代償分割(価格賠償)の判断基準

 賠償分割(代償分割)の方法を採用するかどうかについては、過去の判例が判断基準を示しています。

共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる…のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである

最高裁平成8年10月31日判決

①相当性

 以下の事情を総合的に考慮し、共有不動産を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であるかどうかを判断します。

  • 当該共有物の性質及び形状
  • 共有関係の発生原因
  • 共有者の数及び持分の割合
  • 共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値
  • 分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無

②適正な不動産評価

 特定の共有者に共有物を取得させるには、公正な代償金額を算定しなければならず、共有不動産の評価を適正に行うことが必要となります。

 裁判でもっとも争点となる箇所であり、合意が成立していない場合は原則として裁判所が選任した不動産鑑定士による評価額によって判断されることになります。

③取得者の支払能力

 単独取得者に代償金の支払いを確実に履行してもらうため、支払い方法を確保しておくことが必要となります。

 資力の証明方法としては、通帳や残高証明で示す、あるいは、銀行から融資を受けられることを融資証明書で示すという方法があります。

 代償金の支払いは一括払いが原則ですが、共有者間で分割払いの合意が取れていれば、その限りではありません。ただし、途中で支払いが滞る可能性もあるため慎重な判断が求められます。

 共有者に支払能力がないために代償分割(価格賠償)が採用されず、競売による換価分割となった事例(東京地裁平成31年1月30日判決)もあります。

④実質的公平を害しないこと

 代償分割(価格賠償)は、上記①~③を踏まえ、他の共有者にその持分の価格を取得させるとしても、共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存する場合に認められます。

最後に

 以上のとおり、代償分割(価格賠償)は、共有不動産を取得する者が代償金を支払うことで、共有者間の公平性を図りながら分割を行う方法です。共有者の意向を尊重できる一方、資力や不動産評価の問題で争いが生じる可能性があり、円満な解決のためには共有者間の協議や専門家の関与が必要となります。共有物の代償分割(賠償分割)でお悩みの方は、ご相談いただければと思います。

※本コラムは掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。

弁護士 川並 理恵

所属
大阪弁護士会
大阪弁護士会消費者保護委員会
全国倒産処理弁護士ネットワーク会員

この弁護士について詳しく見る