コラム

2025/03/24

共有不動産の共有者が所在不明・消息不明の場合の対応について

 不動産は相続などを経て、共有状態となることが少なくありません。

 共有不動産は、修繕などの保存行為は共有者の誰か1人が単独で行うことができますが、売却やリフォームなどの処分行為は共有者全員の同意がなければ行えず、不動産の利用が困難になるというデメリットがあります。 

 そのため、不動産を利用するために、不動産の共有関係を解消することを検討される方が多いでしょう。

 しかし、共有者が多いと、中には所在不明になる者がいたり、何十年も前からの登記がそのままだったりして、現在の所有者が不明となってしまうことがあります。

 通常、不動産の共有関係を解消するには、共有者間で協議を行い、共有物分割などの手続をとることになりますが、そもそも一部の共有者が所在不明、消息不明の場合は、共有者間で協議を行うことができません。

 では、共有者の誰かが所在不明(消息不明)になってしまった場合、どのような対応方法があるのでしょうか。

 本コラムでは、共有不動産の共有者が所在不明・消息不明の場合の対応策について解説いたします。

令和5年3月31日以前の対応策

 従来は共有者が所在不明(消息不明)の場合の対策として、以下のようなものがありました。

  1. 不在者財産管理人制度の利用
  2. 失踪宣告制度の利用
  3. 自分の持分のみ売却する

①不在者財産管理人制度の利用

 不在者財産管理人とは、裁判所に不在者の財産を管理する人を選任してもらい、当該管理人に不在者の財産を管理してもらう制度です。

 もっとも、不在者財産管理人は、不在者の財産全般を管理することとされています。そのため、特定の財産にのみ利害関係を有する申立人の申立てにより財産管理人が選任された場合であっても、財産全般を管理することを前提とした事務作業や費用等の負担を強いられ、事案の処理にも時間を要してしまいます。

 また、不在者財産管理人の報酬を含む管理費用を賄うために、申立人が管理費用相当額の予納金の納付を求められることがあります。

 さらに、不在者財産管理人が不動産を売却するには裁判所の許可を得なければなりませんが、裁判所が不動産の売却を許可するとは限りません。特に、不動産の価額の変動が激しいときには、直ちに売却しないと不在者に不利益であると認められる特別な事情がない限り、不動産の売却は許可されない可能性があります。

②失踪宣告制度の利用

 失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。不在者の生死が7年間明らかでないとき、裁判所は申立てにより、失踪宣告をすることができます。

 所在不明者について失踪宣告がなされると、その者は法律上死亡したとみなされ、相続が開始されます。

 そのため、所在不明者の共有持分は相続財産となり、共有物の分割について、所在不明者の相続人と協議することになります。

③自分の持分のみ売却する

 とりあえず自分の持分だけ処分してしまうという方法もあります。

 共有不動産を専門に買い取る不動産業者もありますが、一般的に、共有持分のみを売却して得る代金よりも、共有物全体を売却し、その持分割合に応じて受け取る代金の方が高額になるものと考えられます。

令和5年4月1日以降の対応策

 上述の不在者財産管理人制度や失踪宣告制度は必ずしも利用しやすい制度ではありませんでした。また、自分の持分のみを売却することが困難な場合もありました。

 そこで、令和3年の民法改正によって新しく①所在等不明共有者持分取得制度、②所在等不明共有者持分譲渡制度が導入され、これらは令和5年4月1日に施行されました。

①所在等不明共有者の持分取得制度(民法262条の2)

 所在等不明共有者の持分取得制度とは、共有者が裁判所に申立てることにより、所在不明者の持分を取得することができる制度です。

 裁判所は、持分取得の裁判により持分を喪失することになる所在等不明者の損失を補填するために、不動産鑑定士の鑑定等によって供託金の額を決定し、申立をした共有者は当該金額を法務局に供託することになります。

 裁判所は、所定の期間が経過し、申立人から供託がなされた場合、持分取得の裁判をします。期間内に即時抗告がなければ、持分取得の裁判は確定し、所在等不明共有者の持分は、申立人が取得します。

なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割の対象となる場合、相続開始から10年以上経過している必要があります。

②所在等不明共有者の持分譲渡制度(民法262条の3)

 所在等不明共有者の持分譲渡制度とは、共有者が裁判所に申立てることによって、所在等不明共有者以外の共有者全員が第三者に対して、持分全部を譲渡することを条件に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を与えることができる制度です。

 この場合も、①所在等不明共有者の持分取得制度と同様に、持分譲渡権限付与の裁判により持分を喪失することになる所在等不明者の損失を補填するために供託金が設定され、申立をした共有者は当該金額を法務局に供託することになります。

 裁判所は、所定の期間が経過し、申立人から供託がなされた場合、持分譲渡の裁判をします。期間内に即時抗告がなければ、持分譲渡の裁判は確定し、申立人である共有者が所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を取得します。

 ただし、所在等不明共有者の持分譲渡権限付与決定が出た後、2か月以内にほかの共有者の持分も全部譲渡を済ませてしまわなければ、決定は効力を失います。

なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割の対象となる場合、相続開始から10年以上経過している必要があります。

まとめ

 以上のとおり、共有不動産の共有者が所在不明、消息不明になっていた場合の対応については、令和3年の民法改正で大きく変わりました

 共有者が所在不明、消息不明の共有不動産の利用についてお悩みの方は、一度ご相談ください。

弁護士 川並 理恵

所属
大阪弁護士会
大阪弁護士会消費者保護委員会
全国倒産処理弁護士ネットワーク会員

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