共有不動産の賃貸について
近年、不動産の利用価値への関心の高まりや、相続に伴う親族間の意見の違いによって、共有不動産に関するトラブルが増加しています。
また、所有者不明土地の解消に向けて、令和3年4月に民法が改正され、共有関係の法制度が大きく見直されました。
本コラムでは、法改正の内容を踏まえつつ、共有不動産を賃貸に出す場合の問題点について解説いたします。
目 次 [close]
共有不動産の賃貸借について
賃貸は、不動産の利用形態の一つです。共有物を賃貸することは処分・変更・管理・保存行為の中で、一般的には管理行為に該当すると考えられています。
なお、共有物の処分・変更・管理・保存については、下記コラムをご参照ください。

共有物の管理行為に該当する場合、共有持分の過半数の同意で決定することができます。そのため、共有物の賃貸借契約が管理行為である場合には、共有持分の過半数の同意で可能となります。
短期間の賃貸借
改正民法では、共有物の賃借権、その他の使用・収益を目的とする権利について、以下の期間を超えない短期の賃借権等の設定は管理行為として共有持分の過半数で決定することができると明記されました。
一.樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
民法252条4項
二.前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
三.建物の賃借権等 3年
四.動産の賃借権等 6か月
長期間の賃貸借
借地借家法が適用される借地権の存続期間は、原則30年とされており(借地借家法3条)、また正当の事由があると認められる場合でなければ契約の更新について異議を述べることができません(借地借家法6条)。
同様に、借地借家法が適用される建物賃借権も、正当の事由があると認められる場合でなければ更新拒絶の通知や解約申し入れをすることができません(同法28条)。
そのため、借地借家法の適用を受ける賃貸借においては、不動産所有者の負担が大きく、処分行為に該当するため共有者全員の同意が必要となると考えられています。
ただし、一時使用目的(借地借家法25条、40条)や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)の場合は、管理行為として、共有持分の過半数によって決定することができると考えられています。
また、上述の短期間の賃貸借の期間を超える賃貸借契約の場合、不動産所有者の負担が大きく、処分行為に該当するため共有者全員の同意が必要となると考えられています。
賃料額の変更合意について
一般的には、賃貸人(共有者)と賃借人が賃料額の変更合意は管理行為となると考えられています。そのため、原則として共有持分の過半数の同意によって賃料額の変更を決定することが可能です。
しかし、ケースによっては、賃料の変更合意が変更行為と評価され、共有者全員の同意が必要となることもあるため、注意が必要です。
東京地裁平成14年7月16日判決
賃貸人が共有者であるサブリース契約において、「民法602条所定の期間を超える賃貸借契約(長期賃貸借)を締結することは、共有物の管理行為ではなく処分行為であり、共有者全員の同意を要するものとされていること、本件のような大規模ビルを目的とするサブリース契約における賃貸借の合意においては、賃貸人である建物共有者の権利内容は賃料収受権のみであるといっても過言ではないところ、賃料の変更は共有者の権利に対して重大な影響を与えるものと考えられること…等を考慮すると、本件賃貸借契約において、賃貸人、賃借人間の合意により賃料を変更する場合には、賃貸人である共有者の持分の過半数を有する者と賃借人の間における合意のみでは足りず、賃貸人である共有者全員の同意を得る必要があるものというべきである」と判断しました。
賃貸借契約の解除について
判例では、賃貸借契約の解除について、管理行為に該当すると判断されています。また、解除の不可分性については適用されないと判断されています。
そのため、賃貸借契約の解除については、共有持分の過半数で決定することが可能です。
まとめ
共有不動産の賃貸借については、共有者の負担が大きくない場合、管理行為とされ、共有持分の過半数で決定することが可能です。一方で、長期間の賃貸借やサブリース契約など、共有者の権利に重大な影響を及ぼす場合には、共有者全員の同意が求められることがあります。
共有不動産の利用方法でお悩みの方は、ご相談いただければと思います。

弁護士 白岩 健介
- 所属
- 大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事
この弁護士について詳しく見る