スポーツ選手の選手契約⑵
前回コラムスポーツ選手の選手契約の法的性質⑴では、主にスポーツ選手の選手契約の法的性質について解説いたしました。
本コラムでは、スポーツ選手の選手契約の終了について解説いたします。
目 次 [close]
スポーツ選手の選手契約の終了
スポーツ選手の選手契約が終了する場合、「選手契約の更新の拒否」、「選手契約の合意解約」、「選手契約の解除」の3分類に大別できると思われます。
選手契約の更新の拒否
日本におけるプロスポーツ選手の契約期間は、1年毎であることが多いです。プロ野球においては、毎年秋から年末にかけて契約更改がスポーツニュースの話題となります。所属チームが契約している選手を来シーズンも必要とする場合は契約を更新しますが、チーム事情や選手の成績によっては契約を更新しない場合もあります。
一般的な労働者の場合、労働契約の更新拒否は「雇い止め」といわれ、問題とされますが、プロスポーツ選手の場合は競技における極めて高度な技能が求められるうえ、所属チームの状況や方針も毎年変わるため、一般的な労働契約とは根本的に異なり、毎年契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとは考えにくいです。
したがって、選手契約の更新の拒否があったからといって、ただちに解雇権濫用等の労働法規定違反の問題は生じないと考えられます。
選手契約の合意解約
選手と所属チームの両当事者が、合意に基づいて選手契約を解消する場合、法的な問題が起こることは少ないと考えられます。
選手契約の解除
スポーツ選手の契約の終了において、最もトラブルとなりやすいのは、一方から、とくに所属チーム側からの契約解除の場合です。
まず問題となるのが、選手の労働者性が認められるかどうかとなります。この点、前回コラムでも解説いたしましたが、選手の労働者性が認められた場合、選手契約の解除には厳しい条件が要求されます。また、労働者性が認められなかったとしても、権利濫用の問題となる可能性があります。
次に問題となるのが、解除原因の有無です。一般的に、選手契約書に規定されている解除事由がなければ、解除は認められない可能性があります。
プロ野球の場合、統一契約書様式(https://jpbpa.net/wp-content/uploads/2021/12/uc2018.pdf)第25条において選手による契約解除、第26条において球団による契約解除がそれぞれ規定されています。また、Jリーグの場合は、日本サッカー協会選手契約書[プロA契約書](https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/06/01.pdf)の第9条においてクラブによる契約解除が、第10条において選手による契約解除がそれぞれ規定されています。
選手契約の解除の有効性が問題となった裁判例
東京地裁平成8年10月25日判決
原告が、原告は日本サッカー協会に加盟するプロサッカーチームとの間で、原告を同チーム所属の選手とする旨の契約を締結したところ、これを不当に解除され、同チームの選手としての地位を解除されたと主張して、同チームの契約上の地位を承継した被告を相手方として、解除の意思表示の無効確認を求めるとともに、契約に基づく未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払いを請求した事案です。
裁判所は、クラブ側から選手契約を解除できる原因事由は契約書記載の事由に限定されると解するのが相当であると判断したうえで、原告に右解除事由が存したことを認めるに足りる証拠はなく、また、証拠によれば、原告は、本件契約解除に関し、配達証明書付内容証明郵便による通知を受けていないことが認められるとして、クラブ側による契約解除は無効であると判断しました。
東京地裁平成22年4月19日判決
尿検査で大麻使用の陽性反応が検出されたこと理由に相撲協会を解雇された力士である原告らが、解雇無効を主張して地位確認及び未払賃金請求をした事例となります。
裁判所は、相撲協会が薬物濫用を強く禁止していたことに加えて、薬物問題が深刻な社会問題となりつつあることに照らし、相撲協会が簡易検査及び精密検査の結果、大麻使用が認められた力士らを相撲協会の信用・名誉を毀損したものとして解雇したことが客観的理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くとはいえないとしまして、原告らの請求を棄却しました。
東京地裁平成24年5月24日判決
相撲協会に解雇された力士である原告が、当該解雇は無効であると主張して、相撲協会に対し、地位確認及び解雇後の給与等の支払並びに不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求めた事案です。
裁判所は、原告が本場所相撲である取組において、故意による無気力相撲を行ったことは、継続的な契約関係である役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当たるものということができるから、解雇の根拠となった処分事由の存在が認められ、また、解雇が社会通念に照らして不合理であるとも不相当であるともいえないとして、原告の請求を棄却しました。
最後に
上述のとおり、選手契約の解除の場面において、契約解除の有効性をめぐり、所属チームと選手との間でトラブルが生じることは珍しくありません。
このような問題でお悩みの方は、お早めにご相談ください。

弁護士 有本 圭佑
- 所属
- 大阪弁護士会
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