コラム

2025/02/10

スポーツ選手の選手契約⑴

 近年、プロスポーツのビジネス市場は拡大傾向にありますが、選手の地位について、不明瞭な点が多いのが実態かと思います。

 本コラムでは、スポーツ選手の選手契約について解説いたします。

「プロ」と「アマチュア」はどう違う?

 そもそも、スポーツ選手において、「プロ」と「アマチュア」の違いとはなんでしょうか。法律によってプロやアマチュアといった用語が定義されているわけではないため、実際は様々な意味で用いられることがあります。

 一般的には、プロ選手とは、選手がもっぱら「競技」を職業としており、「競技」の対価として報酬を得ている場合をいい、アマチュア選手は「競技」を職業としておらず、「競技」の対価として報酬を受け取らない場合をいうことが多いと思われます。

スポーツ選手の選手契約の法的性質

 スポーツ選手の選手契約の法的性質として、「労働契約」(民法623条)、「請負契約」(民法632条)、「準委任契約」(民法632条)が考えられますが(なお、民法上の典型契約ではなく、無名契約と考えられることもあるでしょう。)、契約の内容や、業務内容の実情等を踏まえ、総合的に判断されます。

また、プロ化が進んでいる競技か、個人競技か団体競技かになどによっても、選手契約の性質は異なってくるでしょう。

プロ化が進んでいる競技について 

プロ化が進んでいる団体競技

 野球(プロ野球)やサッカー(Jリーグ)はプロ化が進んでおり、実際に競技を行う選手、選手らで構成されるチームを保有する球団·クラブ、球団·クラブで構成されるリーグの三者の協力もと「試合」が運営されています。この「試合」に対して、観客は入場料やグッズ購入、放送局は放映権、スポンサーはスポンサー料を支払うことによって、収益を得て運営が成り立っています。プロのスポーツビジネスにおいては、この三者のバランスの上に成り立っているものです。

 プロスポーツの選手契約の内容としては、競技、所属チーム、リーグ、カテゴリーなどにより様々ですが、選手は試合·練習に参加すること、所属チームが主催する行事·イベントに参加すること、その他禁止事項の遵守が義務付けられています。また、所属チームは、選手への報酬の支払い、遠征費や宿泊費などの負担、トレーニングに関する費用などの負担が義務付けられます。また、その他にも、解雇や懲戒に関する規定、トレードや移籍に関する規定、契約期間、報酬の決定方法、紛争が発生した場合の解決方法等が含まれていることが多いです。

プロスポーツ選手は労働者か?

 労働契約に該当する場合、プロスポーツ選手は「労働者」に該当し、労働基準法のもと、労働時間·解雇·労働災害·賃金支払等に関する保護を受けることができます。

プロスポーツ選手が「労働者」に該当するかについては、以下の事情を総合的に考慮して判断します。

  1. 仕事の依頼等への諾否の自由の有無
    プロスポーツ選手が試合·練習等への参加を選手が拒否することは一般的に認められないので、仕事の依頼等への許諾の自由は高くないと考えられます。
  2. 業務遂行上の指揮監督の有無
    個々のプレーについて最終的な決断はプロスポーツ選手が行うものではありますが、試合における戦術的な方針の指示、練習時間や練習メニューの決定など、チームの指揮監督下におかれていると考えられます。
  3. 勤務時間・勤務場所の拘束性
    試合・練習等への参加が義務付けられているので、拘束性は高いといえるでしょう。
  4. 労務提供の代替可能性の有無
    プロスポーツ選手自体が極めて高度かつ専門的な技能を有するので、通常の労働者より代替性がないといえるでしょう。
  5. 報酬の労働対償性
    プロスポーツ選手の報酬は、一般的な労働者とは異なり、選手の競技成績や在籍年数等が占める割合が大きいといえるでしょう。
  6. 事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)
    自費でスパイクやバット、グラブ等を購入する場合もありますが、ユニフォームやチームウェアなどすべての用具等を選手が負担しているわけではありません。
  7. 専属性の程度
    通常、選手は他のチームで競技を行うことはできず、選手の保有権や移籍制限に関する規定が設けられていることもありますので、一般的な労働者よりも専属性は高いと考えられます。
  8. 公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)
    競技やリーグによって異なりますが、報酬から源泉徴収されていることが多いようです。

 上記のような事情に照らすと、多くのプロスポーツ選手に労働者性が認められるのではないかとも考えられます。

 もっとも、プロスポーツ選手の選手契約の法的性質について言及した裁判例は現時点でほとんどありませんので、今後の裁判例に注目する必要があります。

プロ化が進んでいる個人競技

 プロ化が進んでいる個人競技として、テニスやゴルフなどがあります。これらの選手は個人でコーチやスポンサーを探して契約して試合に参加するので、個人事業主であると考えられます。

 また、競技の主催団体との間の契約の性質については、準委任契約や請負契約など、競技により様々な契約形態が考えられます。

プロ化が進んでいない競技について

プロ化が進んでいない団体競技

 日本においては、企業によってスポーツチームが管理、運営されるケースが多いです。この企業スポーツの特徴は、企業が保有するチームを構成する選手はあくまでも企業に所属する従業員であることです。このような競技として、社会人野球、アメリカンフットボール、ハンドボールなどがあります。

企業スポーツの選手の類型

 企業スポーツの選手の契約や業務内容は様々ですが、主に以下の3つの類型に分類することができます。

  1. 一般的な従業員として業務を行い、就業時間外に競技を行う選手
  2. 一般的な従業員と同じ業務を行いながら、就業時間内に業務として競技を行う選手
  3. 基本的に競技に専念する選手

 一般的な従業員として業務を行い、就業時間外に競技を行う選手の場合、昼休みや就業後に自主的に競技を行う場合が多く、報酬はあくまでも通常業務に対する対価であって、競技に対する対価ではありません。このような従業員は通常の従業員と変わりないため、労働者性を認めることは問題ないと思われます。

 もっとも、就業時間外に行った競技で怪我を負った場合について、労災が認められるか否かは、別途検討する余地があります。

 次に、一般的な従業員と同じ業務を行いながら、就業時間内に業務として競技を行う選手は、一般的な従業員と同じように会社の就業規則が適用され、業務について時間的·場所的にも拘束されているので、労働者性が認められると考えられます。

 なお、会社の業務として競技を行っているため、競技中に負った怪我については、労災が認められると考えられます。

 最後に、基本的に競技に専念する選手は、その競技者としての技能や実績を評価されて採用されている場合が多いですが、あくまでも企業の従業員であるため、例外的な場合を除いては、労働者性が認められると考えられるでしょう。もっとも、このような選手は、一般的な従業員と同じ業務は行っていないため、所属チームが解散する場合には新たな所属先を探すことになるでしょうし、怪我などが原因で選手としての活動が難しくなった場合には、どのような業務を行うかが問題となります。

プロ化が進んでいない個人競技

 プロ化が進んでいない個人競技として、陸上や水泳、柔道など多くのスポーツが挙げられます。これらの選手も企業と契約している場合が多く、その場合は上述の企業スポーツの3類型に区分できます。

 そして、①および②の選手は企業スポーツ選手と同様に労働者性が認められると考えられます。

 しかし、③の場合、企業の支援を受けながらも、外部のコーチを雇うなど、企業による指揮命令が希薄となっている選手も多く存在します。このような選手の場合、請負契約と考えられる場合もあるでしょう。

最後に

 上述のとおり、スポーツ選手の契約は、その競技の特性やリーグのルールによって大きく異なり、雇用契約・請負契約・準委任契約という異なる様々な契約形態が存在します。

 契約内容についてお悩みのスポーツ選手の方、企業の方、スポーツ団体の方について、法律相談を実施しております。

弁護士 有本 圭佑

所属
大阪弁護士会

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