コラム

2024/12/16

全国宅地建物取引業保証協会の弁済業務について

はじめに

 先日、公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会(以下「保証協会」といいます。)の弁済業務を利用して、損害賠償金の弁済を受けることができましたので、手続きの流れ等をご説明します。

保証協会の弁済業務とは

 保証協会の弁済業務とは、宅地建物取引業法に基づき、保証協会が、不動産業者(保証協会の会員)に代わり、取引において損害を被った債権者(被害者)に対して損害賠償金を支払う制度です。

 この弁済業務では、会員の主たる事務所あたりの弁済額の上限が1000万円と定められています。複数の債権者がいる場合には、保証協会に対する認証申出の受理によって、弁済の順序が決まります(宅地建物取引業法64条の8第1項、宅地建物取引業法施行規則26条の6)。

 もっとも、実務上、保証協会は弁済業務の受付ではなく、まずは迅速な解決を目指すべく苦情解決業務(宅地建物取引業法64条の5)を促すことが多いです。

 本件においても、苦情解決業務の促しがありました。そこで、「苦情解決申出書」を提出することとしました。法律上、苦情解決申出は、認証申出と異なるので、苦情解決申出書を提出したとしても弁済業務の順序の保全にならないかと思いますが、保証協会において「苦情解決申出書の受理をもって、認証申出の順序となる」との取り扱いがなされていたため(令和元年11月26日時点)、同書面の提出によって順位を保全することができました。

手続きの流れ

令和元年

10月頃:不動産業者である相手方に対して、訴えの提起。

11月頃:保証協会大阪本部に「苦情解決申出書」を提出。

令和2年

その後、複数回の裁判期日を経て、7月頃に和解が成立(500万円の分割支払いが合意されました)。

令和3年

12月頃:相手方が和解条項を守らず、債権差押命令申立を行いましたが、全額回収は困難でした。

令和4年

3月頃から10月頃にかけて:保証協会大阪本部に経過報告書を提出し、担当者との面談や事情聴取会に参加。

令和5年

1月頃:保証協会大阪本部から認証申出書を提出するよう依頼があり、これに従いました。

9月頃:残債権の全額が認証されました。

感想

 本件は、損害賠償の成立および金額に関して相手方と争いがあり、訴訟によって解決を図る必要がありました。結果的に、裁判所の関与のもとで和解が成立し、当方の請求に近い金額で和解に至りました。しかしながら、訴えの提起から和解に至るまでに1年以上の時間を要しました。そのため、早期に保証協会へ「苦情解決申出書」を提出しておいたことが、弁済業務の順序を確保するために有効だったと思います。

 和解後も、相手方が任意での支払いを怠り、債権差押命令を申立てましたが、十分な資産が見つからず、全額の回収はできませんでした。その結果、保証協会の弁済業務を利用せざるを得なくなりましたが、この過程でも手続きは容易ではありませんでした。

 特に、保証協会大阪本部で行われた「苦情解決申出に係る事情聴取会」では、20名程度の委員が出席する大規模な会議で、非常に緊張感のある環境下での聴取が行われました。弁護士として対応は行いましたが、一般の方であれば、相当な重圧を感じる手続きであったと思います。

 その後、東京本部へ手続きが移管され、最終的に残債権の全額が認証されましたが、ここに至るまでには数年の時間がかかりました。結果として損害賠償金を全額回収することができましたが、非常に多くの時間と労力を要する手続きであり、弁済業務の利用を検討する方には、早期対応と適切な手続きが重要であると強く感じました。

弁護士 白岩 健介

所属
大阪弁護士会
刑事弁護委員会
一般社団法人日本認知症資産相談士協会 代表理事

この弁護士について詳しく見る