管理権喪失の手続について
親権者が、親権を子の利益のために適切に行使していないと認められる場合には、子の利益を保護するために、親権を制限することができます。
前回までに、親権停止や親権喪失について解説いたしましたが、親権を制限する方法には「管理権喪失」(民法835条)という方法もあります。
本コラムでは、管理権喪失の手続について説明します。
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管理権とは
親権には子どもに対する「身上監護権」と「財産管理権」の2つの権利が含まれています。
この内の「財産管理権」が管理権と呼ばれるものです。
管理権喪失とは
管理権喪失については、民法835条に規定があります。
父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
民法835条
管理権喪失とは、親権のうち財産管理権のみを失わせることです。
管理権喪失が認められるには、条文にもあるように、「管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害する」ことが必要となります。
管理権喪失が認められるケースとしては、以下のようなものがあります。
- 親権者が子どもの資産を使い込んだ
- 親権者が子どもの資産を売却し、自身の借金の返済に充てた
- 親権者が破産宣告を受けた
なお、管理権喪失が認められた場合であっても、親権者は引き続き、子の身上監護権は有することになります。
単独親権者、または親権者の双方が財産管理権を喪失した場合は、子どもの財産管理権を行使するものがいなくなってしまうので、財産管理権のみを有する未成年後見人が選任されます(民法838条1号)。
手続きの流れ
親権停止の手続きの基本的な流れは、以下のようになります。
- 管理権喪失の審判の申立て
申立先は、子の住所地を管轄する家庭裁判所となります。 - 家庭裁判所による審理
事実認定に際して、親権者及び子ども(15歳以上のもの)から直接話を聞きます。なお、子どもが15歳未満でも、裁判所の判断により子どもから話を聞くことがあります。 - 家庭裁判所による審判
審理の結果、管理権を喪失すべきかどうか判断し、審判をします。 - 審判の確定
審判がなされてから2週間、誰も即時抗告をしなければ、審判が確定します。
なお、管理権喪失の審判の確定を待っていると、子どもの財産権の行使に不測の事態が生じるおそれのあるとき、家庭裁判所は仮処分として親権者の財産管理権の一時停止や停止中の財産管理権を行使するものを指定することができます。この仮処分は、申立によることも可能です。
申立ができる人
管理権喪失の申立てができる人は以下のとおりです。
- 子ども本人
- 子どもの親族
- 児童相談所所長
- 未成年後見人、未成年後見監督人
- 検察官
申立に必要な書類
審判を申し立てる際、必要になる書類と費用は以下のとおりです。ただし、個々の状況によって異なるケースもありますので、事前に申立先の家庭裁判所に問い合わせることをおすすめいたします。
- 申立書
- 子および親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人と子との関係を疎明する資料
戸籍謄本(全部事項証明書) ※親族の場合
在職証明書 ※児童相談所所長の場合
登記事項証明書 ※未成年後見人または未成年後見監督人の場合 - 収入印紙
- 郵便切手
即時抗告
管理権喪失の審判に納得がいかないときには、「即時抗告」という不服申立てを行うことができます。即時抗告の申立て期限は審判の告知の日(告知を受けない者は、親権を喪失する親権者が告知を受けた日)から2週間以内となっています。
また、即時抗告ができる人は審判の結果によって以下のように異なります。
- 審判が認容の場合
管理権を喪失する親権者やその親族など - 審判が却下の場合
申立人、子及びその親族、未成年後見人、未成年後見監督人など
審判確定後の流れ
審判が容認の場合、速やかに戸籍に管理権喪失が記載されます。
管理権を喪失した親権者は子どもの財産に対する管理権を行使できなくなります。ただし、行使できなくなるのは財産管理権に対してのみで、子どもの身上監護権は引き続き行使できます。
親権者のいずれか一方のみが管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害する場合には、その者のみの財産管理権を剥奪することも可能です。その場合は、管理権を剥奪されていない一方の親権者が、管理権を単独で行使することになります。
過去の裁判例(高松家裁平成20年1月24日審判)
事件の概要
申立人である母Aは、父Xの親が不動産などの財産を所有していたため、未成年者Yに財産を承継させるために、Xを親権者と定めて協議離婚しました。
その後、YはXの親から土地の持ち分について遺贈を受けましたが、相当額の負債を抱えていたXはその債務を返済するためにY所有の不動産を売却してしまいました。
Yは当時大学生で、売却代金を大学の学費に充てたいので100万円欲しいと主張しましたが、XはAを通じて30万円渡すのみでした。
そこで、Aは、Yの財産を守るため、審判の申立てをするとともに、管理権者の職務執行停止を求めて審判前の保全処分を申し立てました。
裁判所の判断
XはYの親権者となったが、離婚当時から生活費、ギャンブル及び飲酒代のために相当額の負債を抱えていたこと、Xは、債務の返済のために、平成17年×月×日にはY所有の不動産を売却し、Yの申入れにもかかわらず、その売買代金をYの希望どおり大学の授業料として使うことはなかったこと、平成19年×月下旬ころには今度はYに無断で未成年者の不動産を売却しようとしたことが認められる。…
Xは、Yの所有不動産をYに無断で売却したこと、Yの希望にもかかわらず、Xの説明によっても売却代金のうち30万円しかYの学費のために使用していないのであり、Yの所有不動産についてXの説明を前提としても、その管理が適切でないことは明らかである。
以上の事実によれば、Xは、管理が失当であったことによってYの財産を危うくしたもの(民法835条)と認められる。
よって、本件申立てには理由があるから、主文のとおり審判する。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
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