コラム

2024/11/18

配置転換

 従業員のキャリア形成や適性の発見などの人材育成のために、配置転換が行われることは多々あります。

 配置転換は企業に広い裁量が認められており、企業に配転命令権がある場合、従業員は配置転換を拒否できないのが原則となります。

 しかし、配置転換にも一定の制約があり、場合によっては、配置転換が違法または無効となります。

 本コラムでは、配置転換について解説いたします。

配置転換とは

 配置転換とは、同一の会社において、従業員の所属部署や勤務場所を変更することをいいます。

 雇用主は変更せずに他の会社で勤務する「出向」や、雇用主を変更する「転籍」とは異なるものとなります。

無効な配置転換

 就業規則に配置転換の根拠規定がある場合、会社は従業員に対して配置転換を命じることができます。

 ただし、配置転換は無制限に認められているのではなく、以下のような場合には配置転換命令が違法または無効と判断される可能性があります。

  1. 就業規則や雇用契約書、労働協約等に配置転換についての規定がない場合
  2. 業務上の必要性が認められないとき
  3. 不当な動機または目的をもって配置転換が行われた場合
  4. 従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある場合

①就業規則や雇用契約書、労働協約等に配置転換についての規定がない場合

 会社が従業員に配置転換を命じるためには、就業規則等によって、配置転換命令権が根拠づけられていることが必要となります。

 一方、このような規定がない場合は、従業員との間での個別の合意がない限り、配置転換が違法または無効と判断される可能性があります。

 なお、就業規則に配置転換命令の規定がある場合であっても、従業員との間で勤務地や職種を限定する合意がある場合は、会社に認められる配転命令権はその合意の範囲内に限定されるため、合意の範囲を超えて転勤や職種変更をするためには従業員の同意が必要となります。

②業務上の必要性が認められないとき

 配置転換は人事権に基づくものですので、会社に広い裁量が認められています。

 しかし、転居を伴う場合などは、従業員の生活関係に少なからず影響を与えることになるので、業務上の必要性が認められない場合の配置転換は権利の濫用として無効になる可能性があります。

 なお、業務上の必要性については、比較的緩やかな基準で肯定されています。

 また、人選に合理性があったかが問題となることがありますが、当該従業員でなければならないという高度の必要性までは要求されず、一定の合理的な基準を設けて選定すれば足りると解されています。

③不当な動機または目的をもって配置転換が行われた場合

 不当な動機または目的を持って行われた配置転換は、権利の濫用として無効になる可能性があります。

 不当な動機や目的を理由に無効と判断された例として、以下が挙げられます。

  • 退職に追い込む目的での配置転換(フジシール事件 大阪地裁平成12年8月28日判決)
  • 内部通報をした社員に対する意趣返しとしての配置転換(オリンパス事件 東京高裁平成23年8月31日判決)

④従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある場合

 配置転換によって、従業員に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が及ぶ場合には、配置転換は無効となる可能性があります。

 裁判例では、単身赴任になることや通勤時間が長時間になる程度であれば「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とはならず、配置転換は有効と判断される傾向にあります。

 一方、裁判例では、以下のような場合に「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」として認定されています。

  • 要介護状態にある親族や転居が困難な病気を持った親族の介護をしている従業員に対する配転命令(ネスレ日本事件 大阪高裁平成18年4月14日判決)
  • 糖尿病で食事療法や運動療法が必要な従業員に対して、新幹線通勤または転居が必要になる配転命令(NTT西日本事件 大阪高裁平成21年1月15日判決)
  • 共働き家庭で重症のアトピー性皮膚炎がある子を養育している育児負担が特に重い従業員に対する転勤命令(明治図書出版事件 東京地裁平成14年12月27日判決)

過去の裁判例

東亜ペイント事件(最二小昭和61年7月14日判決)

事件の概要

 Xは大学卒業後、Y社に入社し、大阪事務所に配属されました。その後、出向を経た後、神戸営業所勤務となり、勤務を続けてきました。

 昭和48年には広島営業所への転勤を内示されましたが、家庭の事情(高齢の母、妻の仕事状況、子供が年少)により転居を伴う転勤には応じられないとして拒否しました。

 その後、Y社は名古屋営業所への転勤をXに内示しましたが、再びXが拒否したところ、Y社はXの同意なく転勤命令を発令しました。

 その転勤命令に対してXが応じなかったため、Y社は就業規則所定の懲戒事由に当たるとしてXを懲戒解雇しました。

 Xは配転命令が人事権の濫用であり、労働協約上の協議がなされていない、頻繁な配転が組合活動を理由とした差別だとして従業員の地位確認並びに賃金支払を求めて提訴しました。

 なお、一審及び二審では、配転命令が人事権濫用としてXの請求を認めていました。

裁判所の判断

 Y社の労働協約及び就業規則には、Y社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現にY社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、Xは大学卒業資格の営業担当者としてY社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかったという前記事情の下においては、Y社は個別的同意なしにXの勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。

 そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

 本件についてこれをみるに、名古屋営業所のAの後任者として適当な者を名古屋営業所へ転勤させる必要があったのであるから、主任待遇で営業に従事していたXを選び名古屋営業所勤務を命じた本件転勤命令には業務上の必要性が優に存したものということができる。そして、Xの家族状況に照らすと、名古屋営業所への転勤がXに与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。したがって、原審の認定した前記事実関係の下においては、本件転勤命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当である。

最二小令和6年4月26日判決(判タ1523号80頁)

事件の概要

 Xは、滋賀県内の福祉施設Yにおいて福祉用具の改造及び製作並びに技術の開発に従事する技術職として雇用されました。その後18年にわたり、技術職としてYで働いていましたが、Yから総務課施設管理担当への配置転換を命じられました。

 これに対し、Xが職種限定合意に反する配転命令は違法であるとして、Yへ損害賠償請求等をした事案となります。

 なお、Xについて職種限定合意があるとの前提で、一審及び二審は配転命令を有効と判断してXの請求を認めませんでした。

裁判所の判断

 労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。上記事実関係等によれば、XとYとの間には、Xの職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、Yは、Xに対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。

 そうすると、YがXに対してその同意を得ることなくした本件配転命令につき、Yが本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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