養子縁組の取消しを求める手続きについて
養子縁組の要件に反して縁組がされた場合、または、他人の詐欺もしくは脅迫によって養子縁組がされた場合、養子縁組の取消しを求めることができます。
養子縁組の取消しを求めることができるのは以下の場合となります。
- 養親が20歳未満である場合
- 養子が尊属または年長者の場合
- 後見人が被後見人を養子とする場合で、家庭裁判所の許可がない場合
- 配偶者のあるものが養子縁組をする場合で、配偶者の同意がない場合
- 15歳未満の者を養子とする場合で、法定代理人の同意のない場合
- 自己または配偶者の直系卑属以外の未成年者を養子とすることについて家庭裁判所の許可がない場合
- 詐欺または強迫による縁組
本コラムでは、養子縁組の取消しを求める手続きについて解説いたします。
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養子縁組の取消しを求める調停
養子縁組の取消しを求める手続は、特殊調停事件とされ、調停前置主義の対象となります。
そのため、養子縁組の取消しを求めるためには、原則として家庭裁判所に調停の申立てをしなければなりません(家事事件手続法257条1項)。
合意に相当する審判
養子縁組の取消しを求める調停において、「養子縁組の取消しの審判を受けること」について当事者が合意し、家庭裁判所が事実を調査した上で、合意を正当と認めるときは、「合意に相当する審判」をすることができます。
この審判が確定すると、養子縁組を取り消す旨の確定判決と同一の効力を生じます。
合意に達しない場合は、調停は不成立となり、訴訟を提起することになります。
養子縁組の取消しの訴え
養親が未成年者である場合
養子をとることができるのは、20歳以上のものです(民法792条)。
そのため、養親が20歳未満であるにもかかわらず縁組の届出が受理された場合には、養子縁組の取消しの訴えの対象となります。
訴訟要件
養親又は養親の法定代理人が原告となり、養子が被告となります。
なお、養子が死亡している場合は検察官を被告とし、養子が訴え提起時に15歳未満であるときは、縁組が取り消された場合の法定代理人となるべき者が被告となります。
なお、以下の場合、養親は縁組取消しの訴えを提起できなくなります(民法804条ただし書)。
- 養親が20歳に達し、その後6ヶ月を経過したとき
- 養親が20歳に達した後に縁組の追認をしたとき
要件事実
縁組の時点で20歳未満であったものが養親となる縁組がされたこと。
養子が尊属または年長者の場合
尊属または年長者は、これを養子とすることができません(民法793条)。
尊属または年長者を養子とした縁組の届出が受理された場合には、養子縁組の取消しの訴えの対象となります。
訴訟要件
縁組の各当事者および各当事者の親族が原告となり、原告となる者に対応して被告が決まります。
要件事実
①尊属を養子とする縁組の取消しは、養親の尊属であるものを養子とする養子縁組がされたこと、②年長者を養子とする縁組の取消の場合、養子が養親よりも年長者である縁組がされたこと。
後見人が被後見人を養子とする場合で、家庭裁判所の許可がない場合
後見人が被後見人を養子とするには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法794条前段)。
また、後見人の業務が終了していたとしても、後見人としての管理の計算が終わらない間に被後見人を養子とするには、同じく家庭裁判所の許可が必要となります(民法794条後段)。
そのため、家庭裁判所の許可を得ずにした縁組について、取消しの訴えの対象となります。
訴訟要件
養子及び養子の実方の親族が原告となります。
養子が原告となる場合は養親が被告となり、養親がすでに死亡しているときは検察官を被告とします。
養子の実方の親族が原告となる場合は養親及び養子の双方が被告となり、いずれかが死亡しているときは生存する当事者のみを被告とし、養親及び養子の双方とも死亡しているときは検察官を被告とします。
なお、後見人の任務終了後で後見の管理の計算終了前に後見人と被後見人が家庭裁判所の許可なく縁組をした場合であっても、以下の場合は縁組の取消しの訴えを提起することはできません。
- 管理の計算が終了した後において、未成年被後見人が成年に達したあと、または、成年被後見人が行為能力を回復した後に養子が縁組を追認したとき
- 管理の計算が終わった時点で、未成年被後見人が成年に達し、または、成年被後見人が行為能力を回復していた場合は、管理の計算が終わった後6ヶ月を経過したとき
- 管理の計算が終わった時点で、未成年被後見人が成年に達しておらず、または、成年被後見人が行為能力を回復していなかった場合は、管理の計算が終わった後において養子が成年に達し、または、行為能力を回復した時から6ヶ月を経過したとき
要件事実
①後見人が家庭裁判所の許可を得ないで被後見人を養子とする縁組をしたこと、または②後見人の任務が終了したが、管理の計算が終わらないうちに、後見人が家庭裁判所の許可を得ないで、被後見人であったものを養子とする縁組をしたこと。
配偶者のあるものが養子縁組をする場合で、配偶者の同意がない場合
配偶者のあるものが単独で縁組をする場合、養親となる場合も養子となる場合にも、配偶者の同意を得なければなりません(民法796条)。
ただし、配偶者が同意・不同意の意思表示をすることができない場合や、配偶者とともに縁組をする場合は、配偶者の同意を必要としません。
配偶者の同意を必要とする場合に、同意を得ないでされた縁組、または、配偶者が詐欺・強迫によって同意をした縁組は取消しの対象となります。
訴訟要件
縁組について同意をしていない配偶者、または、詐欺・強迫によって同意をした配偶者が原告となり、養親及び養子が共同被告となります。
養親及び養子のいずれかが死亡しているときは生存している者が、いずれも死亡しているときは検察官が被告となります。
ただし、以下の場合は訴えを提起することができません。
- 同意をしていない配偶者が縁組を知った後6ヶ月を経過したとき
- 同意をしていない配偶者が縁組を知った後に縁組を追認したとき
- 詐欺によって同意をした配偶者が詐欺を発見した後6ヶ月を経過したとき
- 詐欺によって同意をした配偶者が詐欺を発見した後に縁組を追認したとき
- 強迫によって同意をした配偶者が強迫を免れた後6ヶ月を経過したとき
- 強迫によって同意をした配偶者が強迫を免れた後に縁組を追認したとき
要件事実
①配偶者のある者が配偶者の同意を得ないで、単独で縁組をしたこと、または②配偶者のある者が配偶者の同意を得ないで単独で縁組をしたが、配偶者の同意が他人の詐欺又は脅迫によってされたものであること。
なお、同意は縁組届の時点でされている必要があり、一旦同意した後に縁組届時までに撤回していれば、同意したことにはなりません。
15歳未満の者を養子とする場合で、法定代理人の同意のない場合
15歳未満の者を養子とする縁組の場合、養子となる者の法定代理人(親権者または未成年後見人)が代わって承諾(代諾)することができます(民法797条1項)。
その際、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければなりません(民法797条2項)。これは、例えば父母が離婚し父が子の親権者となっているが、母が監護者である場合などが該当します。
また、法定代理人が親権者であるが、親権を停止されている場合、他の親権者があるときは他の親権者が代諾し、単独親権者が親権を停止されているときは未成年後見人が縁組の代諾をしますが、この場合においても親権を停止されている父母の同意を得なければなりません。
これら、監護者又は親権を停止されている父母の同意を得ないでされた縁組は、取消しの訴えの対象となります。
なお、監護者又は親権を停止されている父母が同意をしたものの、他人の詐欺又は強迫によって同意をしたときも、養子縁組取消しの訴えの対象となります。
訴訟要件
原告となるのは、同意をしていない監護者もしくは詐欺・強迫により同意をした監護者(ただし父母に限る)、又は、同意をしていない親権停止中の父母もしくは詐欺・強迫によって同意をした親権停止中の父母となります。
原則として、養親及び養子が被告となりますが、いずれかが死亡していた場合は生存当事者、いずれも死亡しているときは検察官が被告となります。
ただし、監護者又は親権停止中の父母の同意がない場合であっても、以下の場合は訴えを提起することができません。
- 監護者又は親権停止中の父母の同意がない場合であって、養子が15歳に達した後6ヶ月を経過したとき
- 監護者又は親権停止中の父母の同意がない場合であって、監護者又は親権停止中の父母が追認したとき
- 監護者又は親権停止中の父母が詐欺又は強迫によって同意をした場合であって、詐欺を発見しもしくは強迫を免れた後6ヶ月を経過したとき
- 詐欺又は強迫によって同意をした監護者又は親権停止中の父母が、縁組ついて追認したとき
要件事実
監護者・親権停止者の同意がない場合
①15歳未満の者を養子とする縁組が法定代理人の承諾(代諾)によってされたが、法定代理人のほかに養子となる者の父母でその監護をすべき者があるのに、その同意がなかったこと、または②15歳未満の者を養子とする縁組が法定代理人の承諾(代諾)によってされたが、親権を停止された父母があるのに、その父母の同意がなかったこと。
監護者又は親権停止中の父母が詐欺又は強迫によって同意をした場合
①15歳未満の者を養子とする縁組が法定代理人の承諾(代諾)によってされたが、法定代理人のほかに養子となる者の父母でその監護をすべき者がある場合において、その者が他人の詐欺又は強迫によって同意をしたこと、または②15歳未満の者を養子とする縁組が法定代理人の承諾(代諾)によってされたが、親権を停止された父母がある場合において、そのものが詐欺又は強迫によって同意をしたこと。
養子が未成年者である場合で、家庭裁判所の許可がない場合
未成年者を養子とする場合の縁組は、家庭裁判所の許可が必要です(民法798条)。
ただし、自己、または配偶者の直系卑属(子、孫、ひ孫など)を養子とする場合は、許可は必要ありません。
家庭裁判所の許可なく未成年者を養子とした縁組は、取消し訴えの対象となります。
訴訟要件
養子、養子の実方の親族、代諾をした者(縁組時に養子が15歳未満であった場合)が原告となります。
養子が原告となるとき、養親を被告とし、養親が死亡しているときは検察官が被告となります。
養子の実方の親族が原告となるとき、養親と養子を被告とし、いずれかが死亡しているときは生存当事者を、双方とも死亡しているときは検察官を被告とします。
代諾をした法定代理人が原告となるとき、養子が15歳に達している場合は養親及び養子が被告となり、いずれかが死亡しているときは生存当事者を、双方とも死亡しているときは検察官を被告とします。
ただし、以下の場合は訴えを提起することができません。
- 養子が成年に達した後6ヶ月を経過したとき
- 成年に達した養子が追認をしたとき
要件事実
家庭裁判所の許可を得ないで、自己又は配偶者の直系卑属でない未成年者を養子とする縁組をしたこと。
詐欺または強迫による縁組
詐欺又は強迫によって縁組をした者は、その養子縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法808条1項、747条)。
訴訟要件
他人の詐欺又は強迫によって縁組をしたものが原告となり、養親と養子がともに詐欺又は強迫によって縁組をした場合は、いずれもが取消しの訴えを提起することができます。
なお、詐欺・強迫によって縁組をした者の相続人が訴えを提起することはできないと考えられています。
被告は縁組の相手方当事者であり、死亡しているときは検察官を被告とします。
ただし、以下の場合は訴えを提起することができません。
- 詐欺又は強迫によって縁組をした者が、詐欺を発見し又は強迫を免れた時から6ヶ月経過したとき
- 詐欺又は強迫によって縁組をした者が、縁組の追認をしたとき
要件事実
縁組の当事者である原告が、他人の詐欺又は強迫によって縁組をしたこと。
判決の効力
請求容認の判決の効力は将来に向かってのみ効力を生じ、養子縁組取消しの判決が確定した日から縁組は効力を失います。
確定判決は、請求容認・請求棄却いずれの判決も、第三者に対しても効力を有します。
養子縁組の取消しを命ずる確定判決に基づいて、訴えを提起した者が、判決が確定した日から1ヶ月以内に戸籍の訂正を申請します(戸籍法116条)。
また、養子縁組取消しの判決が確定すると、養子は原則として縁組前の氏に戻ります。なお、縁組の日から7年経過後に取消判決が確定したときは、3ヶ月以内に届け出ることによって、縁組中の氏を名乗ることも可能です。
まとめ
養子縁組取消しでお悩みの方はご相談ください。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
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