コラム

2024/03/04

認知の取消しを求める手続きについて

 前回コラムでは、認知がその人の意思に基づかないでなされた場合や、血縁上の父子関係がないのに認知がなされてしまった場合の無効を求める手続きについて解説いたしました。

認知の無効を求める手続きについて
 認知の制度は「認知請求について」のコラムで説明したとおりです。  それでは、認知がその人の意思に基づかないでなされた場合や、血縁上の父子関係がないのに認知がな.....

 本コラムでは、いったん有効となった認知を取り消す手続きについて解説いたします。

認知とは

 結婚している夫婦の間に生まれた子どもは嫡出子と呼ばれ、出生届を出せば夫婦の戸籍に入り、父母双方と法律上の親子関係が発生します。

 一方、結婚していない男女の間に生まれた子どもは非嫡出子と呼ばれ、法律上の母子関係は分娩の事実によって発生しますが、法律上の父子関係を発生させるには認知の手続きが必要となります。

 詳しくはこちらのコラムをご参照ください。

認知請求について
 婚姻していない男女の間に生まれた子どもは、生物学上の父親との間に、法律上の親子関係は当然には生じません。このような場合に、生物学上の父親と子どもとの間に法律上.....

認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。

民法785条

 父子関係が安定しない状況は、子どもにとって望ましいことではありませんので、原則として、いったん有効となった認知を取り消すことは認められていません。

 しかし、例外的に、人事訴訟法2条2号には認知取消しの訴えが定められています。

この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。

二 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え

人事訴訟法2条2号

 承諾権者の承諾を得ないでされた認知、意思表示が詐欺または強迫によってなされた認知は、取り消すことができると考えられています。

認知の承諾を得ないでなされた認知

 認知では、以下の場合に承諾権者の承諾が必要となります。

  • 成年の子の認知(民法782条)
  • 胎児の認知(民法783条1項)
  • 死亡した子の認知(民法783条2項)

 この際に、認知の承諾権者の承諾を得ないでされた認知についても、承諾権者は取消しを求める手続を求めることができます。

成年の子の認知

成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。

民法782条

 子どもが成年している場合、認知される子どもの意志や利害を考慮すべきものもとして、認知には子どもの承諾が必要となります。

胎児の認知

父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。

(民法783条1項)

 早期に父子関係を形成することは子どもの利益にかなうという考えから、胎児であっても父親は認知をすることができます。

 しかし、認知には母親に重大な影響があることから、認知には母親の承諾が必要となります。

死亡した子の認知

父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。

民法783条2項

 死亡した子どもであっても、その子どもに直系卑属(子どもや孫)がいる場合は、扶養や相続の関係から認知が認められています。

 しかし、これもまた子どもの直系卑属が成年の場合は、直系卑属に重大な影響があることから、認知には直系卑属の承諾が必要となります。

承諾なしにされた認知の効力

 上記のように、認知に承諾が必要な場合は、その承諾を証する書面を添付し、又は届出書に承諾する旨を付記し、署名押印する必要があります(戸籍法38条1項)。

 承諾権者の承諾書の添付などがなされていない認知届が受理されてしまった場合、婚姻や養子縁組の形式的要件を欠いた場合と同様に、取消原因になるものと考えられます。

 父子関係の安定を考えると、認知者の意思表示のみで取り消されるのは相当ではなく、裁判所を通した手続きによってのみ取り消されるべきであるといえます。

詐欺または強迫によってなされた認知

 子どもを認知した父親が、その認知を撤回することを認めるのは、認知を受けた子どもの地位が不安定となるため、認められるものではありません。

 では、詐欺又は脅迫によって認知した場合はどうでしょうか。

 認知が事実に反する場合は、認知者であっても認知無効の訴えを提起することができますが、問題となるのは認知が事実に反しない場合です。

 判例では詐欺または強迫によってなされた認知は、取り消すことができるとされています。

 他方で、詐欺又は脅迫によってなされた認知であっても、事実に反しない場合は、子どもの地位を不安定にさせないためにも取消しは相当ではないという意見もあります。

認知の取消しを求める調停

 認知の取消しの手続は、特殊調停事件とされ、調停前置主義の対象となります。

認知の承諾を得ないでなされた認知の場合

 申立人は承諾権者であり、相手方は子が申立人のときは父(母)となり、第三者が申立人となる場合は、子及び父となります。

 申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所となります。

詐欺または強迫によってなされた認知の場合

 詐欺または強迫により認知をしたもの(父)が申立人となります。

合意に相当する審判

 認知の取消しの審判を受けることに合意が成立し、取消しの原因について争いがないないときは、家庭裁判所が事実を調査した上で、合意を正当と認めるときは、合意に相当する審判をすることができます。

 この審判が確定すると、認知を取消す旨の確定判決と同一の効力を生じます。

認知の取消しの訴え

 管轄の裁判所は、認知関係の当事者である父及び子のいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所となります。

 なお、当事者がすでに亡くなっている場合は、亡くなったときの住所地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所となります。

訴訟要件

認知の承諾を得ないでなされた認知の場合

  原告適格を有するのは、以下の者となります。

  1. 認知を受けた成年の子
  2. 認知を受けた胎児の母
  3. 子が死亡した後に認知がなされた場合の成年に達した直系卑属

 なお、母親の承諾のない胎児認知の場合、胎児が出生した後は母親も原告適格を失うことになります。

 被告適格を有するのは以下のもとなります。

  • ①が原告の場合
    父を被告とし、父が死亡しているときは検察官が被告となります。
  • ②が原告の場合
    父を被告とし、父が認知後に死亡したときは検察官が被告となります。
  • ③が原告の場合
    父を被告とし、父が死亡しているときは検察官が被告となります。

詐欺または強迫によってなされた認知の場合

 原告適格を有するのは、詐欺または強迫により認知をしたもの(父)となります。

 認知した子が被告となり、子が死亡しているときは検察官が被告となります。

要件事実

認知の承諾を得ないでなされた認知の場合

  • 成年の子の承諾を欠いた認知
    成年の子についてその承諾を得ないで認知がされたこと。
  • 母の承諾を得ない胎児認知
    体内に在る子について母の承諾を得ないで認知がされたこと。
  • 子の死亡後に成年の直系卑属の承諾なしにされた認知
    ①死亡した子に対する認知が行われたこと
    ②子に直系卑属があるが、その直系卑属の承諾を得なかったこと。

詐欺または強迫によってなされた認知の場合

 他人の詐欺又は強迫により認知をしたこと。

判決の効力

 認知の取消しを確認する判決が確定すると、認知は認知時から客観的に取り消される、あるいは認知は認知時に遡って取り消されると考えられます。

まとめ

 認知の取消しについてお悩みの方は、ご相談ください。

弁護士 田中 彩

所属
大阪弁護士会

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