コラム

2023/10/09

労働者性

 企業等と締結した労働契約に基づいて労務を提供する者は、労働関係法令上の「労働者」として、各法令の保護を受けます。これは、労働関係法令の適用範囲が「労働者」という概念によって画されているためです。

 これに対し、自営業者であるフリーランスは、原則として労働関係法令の保護の対象となりません。フリーランスは労働契約ではなく、業務委託契約や請負契約を結んで仕事をしているため、「労働者」に該当しないと解されるためです。もっとも、形式上雇用関係にない場合であっても、実質的な関係性から「労働者」性が認められることもあります。

 本コラムでは労働者性について解説いたします。

労働基準法上の「労働者」性

 労働基準法(労基法)において、「労働者」とは、次のとおり、定義されています。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法9条

 労基法上の「労働者」に該当するか否かは、以下の基準によって判断されます。

「指揮監督下の労働」に関する判断基準

仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

 具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に諾否の自由がある場合、他人に従属して労務を提供しているとはいえず、指揮監督関係を否定する要素となります。

 他方、諾否の自由がない場合は、指揮監督関係を推認させる要素となります。もっとも、契約内容によっては、諾否の自由がないことのみをもって直ちに指揮監督関係を肯定することはできませんので、契約内容も勘案する必要があります。

業務遂行上の指揮監督の有無

 業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素になります。

 しかし、指揮命令の程度が問題となり、通常注文者が行う程度の指示に留まる場合は、指揮監督を受けているとはいえないと考えられています。

勤務場所・勤務時間の拘束性の有無

 勤務場所及び勤務時間が指定・管理されていることは、一般的には、指揮監督関係の基本的な要素となります。

 しかし、演奏等の業務の性質上や、建設等の安全確保の必要性から、必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合もあるため、業務の性質によるものか、業務の遂行を指揮監督するためになされているものかを見極める必要があります。

労務提供の代替性の有無(補強要素)

 本人に代わって他の者が労務提供をすることが認められていたり、本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているなど、労務提供の代替性が認められていることは、指揮監督関係そのものに関する基本的な判断基準ではありませんが、指揮監督関係を否定する要素の一つになるとされています。

「報酬の労務対償性」に関する判断基準

 報酬が業務の結果(仕事の完成等)を基準として支払われるのではなく、時間給を基礎として計算されている場合や、欠勤した場合には欠勤分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には手当が支給される等、報酬の性格が、使用者の指揮監督のもとに一定時間労務を提供したことに対する対価と判断される場合、「使用従属性」を補強する要素と考えられています。

労働者性の判断を補強する要素

 「労働者性」が問題となる事案については、「使用従属性」の判断が困難な場合もあるため、以下の要素等を勘案し、総合的に判断されます。

事業者性の有無

 以下のような場合は「事業者」としての性格が強く、「労働者性」を弱める要素となります。

  • 機器・器具の負担関係
    本人所有の機器・器具を使用しているとき、特にその機器・器具が著しく高価な場合
  • 報酬の額
    当該企業において同様の業務に従事している正規従業員と比べて、報酬の額が著しく高額である場合
  • その他
    業務遂行上の損害に対する責任を負っている、独自の商号使用が認められている場合等

専属性の程度

 他社の業務を行うことが制度上制約されたり、時間的な余裕がなく事実上他社の業務を行うことが困難であるような場合、また、報酬に固定給部分があるなど、報酬に生活保障的要素が強いと認められるような場合には、専属性が高く、経済的に当該企業に従属していると考えられ、「労働者性」を補強する要素となります。

その他

 その他、下記のよう事情は、「労働者性」を補強する要素となります。

  • 採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様である
  • 報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている
  • 労働保険の適用対象としている
  • 服務規律を適用している
  • 退職金制度、福利厚生を適用している

労働契約法上の「労働者」性

 労働契約法(労契法)では、「労働者」について以下のように定められています。

この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

労働契約法2条1項

 労基法上の「労働者」と比較すると、労基法が「事業に使用される」という限定を付加している点を除いては同一であり、労基法上の「労働者」であれば、労契法上の「労働者」に含まれると解されています。

労働組合法上の「労働者」性

 労働組合法(労組法)では、「労働者」について以下のように定められています。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。

労働組合法3条

 労組法上の労働者性の判断については、厚生労働省が次のような判断基準を示しています。

基本的判断要素

①事業組織への組み入れ

②契約内容の一方的・定型的決定

③報酬の労務対価性

補充的判断要素

④業務の依頼に応ずべき関係

⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束

消極的判断要素

⑥顕著な事業者性

労働者災害補償保険法上の「労働者」性

 労働者災害補償保険法(労災保険法)では「労働者」についての定義規定をおいていません。しかし、労災保険制度は労基法に定める使用者の災害補償責任を填補するものなので、労災保険法上の「労働者」は労基法上の「労働者」と同義であると解されています。

過去の裁判例

横浜南労基署長(旭紙業)事件(最高裁第一小法廷平成8年11月28日判決)

事件の概要

 Xは、自己の所有するトラックをY株式会社の横浜工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、以下の条件で同社の製品の運送業務に従事していました。

①Y社のXに対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった。

②勤務時間については、Y社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた。

③報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた。

④Xの所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべてXが負担していた。

⑤Xに対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、Xは、報酬を事業所得として確定申告をした。

 Xは、作業中に傷害を負う事故を起こしたため、療養補償給付等の申請をしたところ、労働基準監督署が、Xは労災保険法上の労働者には該当しないとして不支給処分にしたため、Xがその処分の取消しを求めて提訴しました。

裁判所の判断

 Xは、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、Y社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、Xの業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、XがY社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、Xが労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。よって、Xは、労基法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。

藤沢労基署長(大工負傷)事件(最高裁第一小法廷平成19年6月28日判決)

事件の概要

 Xは、作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事するという形態で稼働していた大工であり、株式会社A等の受注したマンションの建築工事についてB株式会社が請け負っていた内装工事に以下の条件のもと従事していました。

①Xは、Bからの求めに応じて上記工事に従事していたものであるが、仕事の内容について、仕上がりの画一性、均質性が求められることから、Bから寸法、仕様等につきある程度細かな指示を受けていたものの、具体的な工法や作業手順の指定を受けることはなく、自分の判断で工法や作業手順を選択することができた。

②Xは、作業の安全確保や近隣住民に対する騒音、振動等への配慮から所定の作業時間に従って作業することを求められていたものの、事前にBの現場監督に連絡すれば、工期に遅れない限り、仕事を休んだり、所定の時刻より後に作業を開始したり所定の時刻前に作業を切り上げたりすることも自由であった。

③Xは、当時、B以外の仕事をしていなかったが、これは、Bが、Xを引きとどめておくために、優先的に実入りの良い仕事を回し、仕事がとぎれないようにするなど配慮し、X自身も、Bの下で長期にわたり仕事をすることを希望して、内容に多少不満があってもその仕事を受けるようにしていたことによるものであって、Bは、Xに対し、他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなかった。また、XがBの仕事を始めてから本件災害までに、約8か月しか経過していなかった。

④BとXとの報酬の取決めは、完全な出来高払の方式が中心とされ、日当を支払う方式は、出来高払の方式による仕事がないときに数日単位の仕事をするような場合に用いられていた。前記工事における出来高払の方式による報酬について、Xら内装大工はBから提示された報酬の単価につき協議し、その額に同意した者が工事に従事することとなっていた。Xは、いずれの方式の場合も、請求書によって報酬の請求をしていた。Xの報酬は、Bの従業員の給与よりも相当高額であった。

⑤Xは、一般的に必要な大工道具一式を自ら所有し、これらを現場に持ち込んで使用しており、XがBの所有する工具を借りて使用していたのは、当該工事においてのみ使用する特殊な工具が必要な場合に限られていた。

⑥Xは、Bの就業規則及びそれに基づく年次有給休暇や退職金制度の適用を受けず、また、Xは、国民健康保険組合の被保険者となっており、Bを事業主とする労働保険や社会保険の被保険者となっておらず、さらに、Bは、Xの報酬について給与所得に係る給与等として所得税の源泉徴収をする取扱いをしていなかった。

⑦Xは、Bの依頼により、職長会議に出席してその決定事項や連絡事項を他の大工に伝達するなどの職長の業務を行い、職長手当の支払を別途受けることとされていたが、上記業務は、Bの現場監督が不在の場合の代理として、BからXら大工に対する指示を取り次いで調整を行うことを主な内容とするものであり、大工仲間の取りまとめ役や未熟な大工への指導を行うという役割を期待してXに依頼されたものであった。

 Xは作業中に負傷したため、労災保険の療養補償給付等を申請しましたが、労働基準監督署長が不支給の決定をしたため、処分の取消しを求めて提訴しました。

裁判所の判断

 Xは、前記工事に従事するに当たり、Aはもとより、Bの指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず、BからXに支払われた報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、上告人の自己使用の道具の持込み使用状況、Bに対する専属性の程度等に照らしても、上告人は労働基準法上の労働者に該当せず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。

NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件(神戸地裁平成26年6月5日判決)

事件の概要

 本件は、Yとの間で、平成13年7月以降5回にわたり、Yの放送受信料の集金及び放送受信契約の締結等を内容とする期間6か月ないし3年間の有期委託契約を継続して締結してきたXが、Yから平成24年3月1日をもって同契約を途中解約されたことにつき、前記契約は労働契約であり、Yの解約は契約期間中における解雇であるから、労働契約法(以下「労契法」という。)17条1項により、やむを得ない事由がある場合でなければ許されないところ、そのような事由に基づかない不当な解雇であるとして、Yに対し、労働契約に基づき、労働者としての地位確認並びに未払賃金、慰謝料等の支払を求めた事案です。

裁判所の判断

 労基法上の労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」(同法9条)とされており、労契法では「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(同法2条1項)とされているところ、両者の関係については、原則として同一の概念であり、いずれも「使用従属性」の有無によって判断されると解するのが相当である(使用従属性同一説)。仮に、労契法上の労働者の方が労基法上の労働者よりも広いと解するとしても(非同一説ないし峻別説)、少なくとも労基法上の労働者に該当すると認められる場合には、当然に労契法上の労働者に含まれることになる。

そこで、まず、本件におけるXY間に締結された実際の契約内容を前提として、Xが労基法上の労働者に含まれるかどうかについて判断すべきことになるが、この判断に当たっては、請負契約や委任契約などの当事者が選択した契約の名称や形式にかかわらず、実質的に「使用従属関係」の有無及びその程度について検討すべきであり、これが認められると労基法上の労働者と判定されることになる。

 労基法上の労働者性が認められる要素としての「使用従属関係」とは、一般的に、「使用者の指揮命令の下で労務を提供する(使用従属)関係」と解されているから、①「指揮監督下の労働」(労務提供の形態)と②「報酬の労務対償性」(報酬が提供された労務に対するものであるかどうか)によって判断すべきである(以下、この①②を併せて「使用従属性」と総称する。)。

 ①スタッフの業務の内容はYが一方的に決定しており(仕事の依頼への諾否の自由がない)、②勤務場所(受持区域)もYが一方的に指定し、事実上スタッフには交渉の余地がないこと(場所的拘束性)、③勤務状況についても、稼働日などについて事前に指示があり、スタッフは事実上それに従った業務計画表を提出し、定期的に報告することになっていたこと(業務遂行上の指揮監督)、④Yは、ナビタンを使用した報告により、スタッフの毎日の稼働状況を把握でき、十分ではないと認めたスタッフには細かく「助言指導」していたこと(業務遂行上の指揮監督・時間的拘束)、⑤これらの「助言指導」は、「特別指導」制度の存在により、事実上、指揮命令としての効力を有していたと認められること(業務遂行上の指揮監督)、⑥事務費は、詳細に取り決められており、基本給的部分と評価し得る部分及び賞与といえる制度も存在していたことに加えて退職金といえるせん別金ほかの給付制度も充実していることなどからすれば、Yから支給される金員には労務対償性が認められるというべきこと(報酬の労務対償性、組織への結びつけ)、⑦事実上第三者への再委託は困難であったこと(再委託の自由がない)、⑧事実上兼業も困難であったし、これが許されていたとしても、本件契約の法的性質を判断する上で大きな要素となるものではないこと(専属性)、⑨事業主であることと整合しない事務機器等の交付が行われていたこと(機械・器具の負担等)などの事情が認められるところ、当裁判所は、これらの事情を基礎として総合的に評価すれば、本件契約は労働契約的性質を有するものと解するのが相当と考える。

 よって、Yの反論を考慮しても、本件契約は労働契約的性質を有するものというべきであるから、Xは、労基法上の労働者と認めるのが相当というべきであり、したがって労契法上も労働者と認めるのが相当とである。

弁護士 岡田 美彩

所属
大阪弁護士会

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