婚姻取消しについて
詐欺や強迫によって婚姻が成立した場合など、一度有効に成立した婚姻については、取消事由があることを理由として婚姻の取消しを求めることができます。
本コラムでは、婚姻取消しの手続きについて、解説いたします。なお、本コラムは掲載時点での法律に基づいて執筆しております。
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婚姻の取消しが認められる場合
不適法な婚姻の取消し(民法744条)
本来成立しないはずの婚姻が何らかの事情で成立してしまった場合に、公益的な観点から取り消すものです。
- 不適齢婚
- 重婚
- 近親婚
- 待婚期間中の婚姻(なお、令和6年4月に施行される改正民法によって、女性の再婚期間の禁止は廃止される予定です。)
不適齢婚・重婚・再婚禁止期間中の婚姻・近親婚に触れる婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から取消しを家庭裁判所に請求することができます。また、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、取消権を失います。また、重婚と再婚禁止期間中の婚姻については、当事者の配偶者または前配偶者も取消しを請求することができます。
詐欺または強迫による婚姻の取消し(民法747条)
詐欺・強迫を受けた当事者を保護するために、私益的な観点から取り消すものです。
- 詐欺
- 強迫
詐欺または強迫によって婚姻した者は、婚姻の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。また、この取消権は、当事者が詐欺にかかったことを発見し、もしくは強迫状態から解放され3か月を経過するか、3か月以内であっても当事者が追認したときは消滅します。
婚姻取消しの効果(民法748条)
婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
2 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない。
3 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う。
婚姻の取消には遡及効がなく、将来に向かってのみ効力が及びます。しかし、財産関係に関しては一定の範囲で遡及効を認め、善意の婚姻当事者は、婚姻によって得た財産のうち現に利益を受ける限度で、返還しなければなりません。悪意の婚姻当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還する必要があり、さらに、相手方が善意であったときは損害賠償の責任も負うことになります。
婚姻取消しの手続
婚姻の取消しを求める訴えを提起することになりますが、その前に調停を行う必要があります(調停前置主義)。
調停
申立権者は、以下の者になります。
- 詐欺、強迫による場合は、婚姻当事者のみ。
- その他の場合には、婚姻当事者、親族。
- 重婚、待婚禁止期間内の婚姻については、婚姻当事者、親族、前婚の配偶者。
相手方は、以下の者になります。
- ①の場合は、婚姻当事者の他方。
- ②の場合で婚姻当事者が申立の場合には、婚姻当事者の他方。親族の場合には、婚姻当事者双方、一方が死亡している場合には、生存配偶者。
- ③の場合には、婚姻当事者双方、一方が死亡している場合には生存配偶者。
管轄裁判所は、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者の合意で定める家庭裁判所です。
申立手続には、収入印紙と予納郵券が必要となります。収入印紙は1,200円必要となり、予納郵券は管轄裁判所ごとに異なりますので、申立てを予定している管轄裁判所にお問い合わせください。
添付書類は、夫婦の戸籍謄本、住民票、婚姻届の記載事項証明書、親族その他の第三者が申立人の場合は、その者の戸籍謄本と住民票です。
訴訟
訴訟要件
- 不適齢婚:婚姻が成立していること
- 重婚:後婚が成立していること
- 近親婚:取消しの対象となる婚姻が成立していること
- 待婚期間中の婚姻:女性が再婚したこと
なお、待婚期間中の婚姻については、前婚の解消若しくは取消しの日から起算して100日を経過し、また女性が出産したときは、取消しを請求することはできません。
要件事実
- 不適齢婚:婚姻時に18歳に達していなかったこと
- 重婚:婚姻している者がさらに婚姻したこと
- 近親婚:直系血族の間で婚姻がなされたこと、または3親等以内の傍系血族の間で婚姻がされたこと
- 待婚期間中の婚姻:女性が前婚の解消または取消しの日から起算して100日以内に再婚をしたこと
- 詐欺・強迫:詐欺または強迫によって婚姻をしたこと
未成年者の子がいる場合
裁判所が婚姻の取消請求を認容するときは、職権で、未成年の子について親権者指定の裁判をしなければなりません。
附帯処分
附帯処分とは 離婚の訴えでは、申立てにより、離婚の審理とあわせて、子の監護に関する処分(養育費、面会交流など)、財産の分与に関する処分、年金分割に関する処分について審理を行うことができます。婚姻取消訴訟の場合も同様に、裁判所が取消請求を認容する場合に、当事者の申立てにより附帯処分をしなければなりません。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
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