婚姻無効について
知らない間に婚姻届が提出されてしまっていた場合など、形式上有効に婚姻が成立した夫婦について、戸籍を訂正するには、婚姻関係の無効を確認しなければなりません。
本コラムでは、婚姻関係無効確認の手続きについて、解説いたします。
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婚姻関係の無効が認められる場合
婚姻が有効となるためには、①婚姻の届出、②婚姻意思が要件となります(民法742条)。
そのため、知らない間に提出された婚姻届は、婚姻意思が存在しないため、無効となります。
その他、在留資格取得のための偽装結婚や、子に嫡出性を与えるなど他の目的達成のための方法として婚姻届が提出されたときも、婚姻意思がないとして、婚姻は無効となると考えられています。
婚姻関係の無効を確認する手続
上述のように、婚姻意思がないにもかかわらず婚姻届が提出されて受理された場合、形式的には婚姻が成立し、戸籍に反映されます。
そして、戸籍を訂正するには、婚姻が無効である旨の審判や判決が必要となります。
婚姻の無効の訴えは、調停前置主義が取られており、まずは家庭裁判所に、婚姻無効確認の調停を申し立てる必要があります。調停が不調となり、審判もなされなければ、婚姻無効確認の訴えを提起することになります。
婚姻無効調停
申立てを行えるのは、婚姻の当事者または婚姻無効の確認の利益を有する親族その他の第三者です。相手方となるのは、申立人が婚姻の当事者である場合は他方配偶者であり、親族その他の第三者である場合には夫婦両名となります。なお、夫婦の一方が死亡している場合には、後述する「合意に相当する審判」ができません。
管轄となる裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所となります。
申立があると、調停委員及び調停期日が指定され、双方当事者から事情を聴取します。
合意に相当する審判
婚姻の無効を確認することについて、当事者間で合意が成立した場合であっても、合意だけでは婚姻無効となりません。
家庭裁判所は以下の条件が整ったとき、調停委員会を組織する調停委員の意見を聞き、必要な調査をした上で、合意を正当と判断したとき、合意に相当する審判をすることができます(家事事件手続法277条)
- 当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立していること。
- 当事者の双方が申立てに係る無効若しくは取消しの原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について争わないこと。
合意に相当する審判がなされ、審判が確定した場合は、婚姻の無効を確認する確定判決と同様の効力が生じます。この審判により婚姻の無効が対世効をもって確認されます。
審判が確定した後は、申立人は、合意に相当する審判が確定した日から1ヶ月以内に、戸籍の訂正を申請しなければなりません。
※対世効…効力が当事者のみならず、第三者に対しても及ぶこと
なお、合意に相当する審判に対し、当事者から適法な異議申し立てがあり、かつ異議に理由があると認められた場合、家庭裁判所は合意に相当する審判を取り消します。利害関係人から適法な異議が申し立てられた場合も同様です。
婚姻無効確認の訴え
調停が不調となり、審判もなされなければ、婚姻無効確認の訴えを提起することになります。婚姻無効確認の訴えの管轄裁判所は、夫または妻の普通裁判籍所在地を管轄する家庭裁判所になります。
原告となるためには「確認の利益を有するもの」である必要があります。婚姻の当事者である夫または妻は当然ですが、第三者であっても婚姻の無効の確認を求める法的利益があれば、原告となることができます。
訴訟要件
婚姻無効確認の訴えは確認の訴えであることから、確認の対象となる「婚姻が成立していること」が必要となります。
要件事実
婚姻無効が認められるためには、「婚姻が成立していること」に加え、婚姻当事者間に婚姻をする意思がなかったことが必要となります。
婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
民法742条1項
婚姻意思について
どのような意思であれば婚姻意思があったといえるかについて、婚姻届を提出する、戸籍上の婚姻状態とするという意思(形式的意思)に加えて、社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思(実質的意思)が必要であるであると考えられています。
婚姻意思の裁判例(最高裁第二小法廷昭和44年10月31日判決)
「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すべきであり、・・・たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合意があり、ひいて当事者間に、一応、所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあつたと認めうる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであって、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかつた場合には、婚姻はその効力を生じないものと解すべきである。
判決の効力
請求認容の判決が確定すると、婚姻は当初から無効であったことになります。
また、判決が確定すれば、第三者に対しても効力を生じます。
請求容認判決が確定した場合、妻が婚姻中に懐胎した子であっても、嫡出推定の根拠を失うことになり、夫の子と推定されず、妻の嫡出でない子となります。
婚姻の無効を確認する判決が確定したときは、原告は、判決が確定した日から1ヶ月以内に戸籍の訂正を申請しなければなりません。
弁護士 田中 彩
- 所属
- 大阪弁護士会
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